つゆ

梅雨の空を見上げる巫女・六の章(本文)

六の章 梅雨の雫と奇跡 

 煙羅煙羅は彩芽が倒した。しかし彩芽も倒れ伏したまま動かない。静鶴は自らの怪我をかばいつつ、ゆっくり近づいた。彩芽の顔は蒼白で血の気が全く無く、呼吸も止まっているようであった。その時、今まで呆然と立ち尽くすのみであったつゆが、泣き叫びながら彩芽に抱きついた。
「彩姉!彩姉!いやー!!」
つゆは脇目も振らず泣き叫んだ。双眸から涙の粒がぼとぼとと彩芽の顔にしたたり落ちた。 梅雨の雨の如く落ちる涙。静鶴は、涙の粒の中に、非常にかすかではあるが清らかな輝きを見た。
「あれはもしや…。」
彩芽の顔に落ちたつゆの涙の粒に、次々と清冽な光が宿りはじめた。光は徐々に強くなり、彩芽の全身を覆い、蒼く激しく輝き始めた。
「まさか、あの子は、古の癒し手の末裔?」
静鶴がつぶやくと同時に、光の輝きは絶頂に達した。そして、光は唐突に消えた。静鶴はそこに奇跡を見た。
「う、ううん…、つゆ?」
彩芽の目が開き、つゆの名を呼んだ。
「彩姉!」
つゆは感激のあまり叫んだ。彩芽の顔に生気が戻り、ゆっくりではあるが上半身を起こした。そして元の慈愛に満ちた笑顔で優しくつゆを抱きしめた。
「ありがとう、つゆ。今度はあなたが私を助けてくれたのね。」
つゆは彩芽の胸に顔を埋め、何度も首を縦に振った。二人にはそれ以上の言葉は必要なかった。
「もう、驚かせるんじゃないわよ。」
静鶴は安堵の表情を浮かべ、妹の奇跡の復活を心から喜んだ。


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