梅雨の空を見上げる巫女・二の章(本文)
二の章 偽りの幸福と前触れ
「...あ、夢だったんだ。」
つゆは目を覚ました。神社で巫女の修行をしている今でも、つゆは過去の忌まわしき記憶と彩芽との出会いの夢をよく見る。彼女から心の傷が消えることは決してない。しかし彩芽との出会いの記憶がそれを掻き消してくれる。
「あの人のようになりたい、強くなりたい。」
彼女はそう願い、巫女の修行を受ける決心をしたのであった。 つゆが身支度をしていると、戸を叩く音がした。彩芽であった。
「またうなされていたみたいだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です、彩姉!」
つゆは元気よく答えた。
「彩姉、じゃないでしょ! 修行中は彩芽様と呼ばなきゃでしょ?」
彩芽は優しくたしなめると、急いで部屋を後にした。つゆは、彩芽が宮司様と年に一度の御祓いの儀式の準備に追われている事を思い出した。彩芽はつゆだけを見ているのでは無く、宮司様の下、神社の全ての巫女を纏める重い責務がある。そのことを改めて自分に言い聞かせて、つゆは 部屋を後にした。
つゆは朝の日課である境内の掃除を始めた。先輩の巫女達とすれ違う度「おはようございます」と丁寧に挨拶をした。巫女たちはにこやかに挨拶を返したが、つゆから少し離れると、ひそひそと話し始めた。
「ねえ、あの子って何か妙な雰囲気を感じない?」
「うんうん感じる。微かに人の気配じゃないような。ちょっと気味悪いかも。」
つゆには彼女達の話が聞こえていたが、聞こえていないふりをした。こういう陰口には慣れている、大丈夫、彩姉がいて下さる、と何度も自分に言い聞かせながら。
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