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年をとって、クローゼットに戻るLGBTQ

アメリカで、ストーンウォールの時代から平等な権利を求めて闘い、パートナーとの生活を作り上げてきた世代のゲイやトランスジェンダーたちが、介護が必要な状態になってからクローゼットに入ったり、孤立する事態が増えている。

ボストンの年老いたLGBTコミュニティを描いたドキュメンタリー『Gen Silent』はそんな悲しい現実を捉えた作品だ。

LGBTQをめぐる話題で、教育は大きなトピックの一つだが、シニア層に接する人々の教育も大問題。介護施設や介護者にLGBTQに対する理解や適切な対応方法が浸透していない場合、弱い立場に戻ったシニアのLGBTQたちは、もろに影響を受けてしまう。

彼らは他人の目を恐れ、ヒソヒソ話で噂されることや、ニヤニヤとからかわれること、はっきりと施設から差別されることを恐れ、また時には自らの身を委ねなければいけない看護師や介護者から「ゲイは間違ってる。天国にいけない」と説教されたり「今からでも遅くない」とゲイを「治す」ことを強制されることなどを恐れ、再び「クローゼットに入っていく」。

初めからクローゼット生活に慣れてる人ならよいけど、それまでオープンに生きてた人や、クローゼットになりたくない人、また、肉体的な理由などでクローゼットになりきれない人などにとって、これはかなり辛い。

作品内では、介護施設向けにLGBT研修を提供する団体の姿が描かれるが「うちの施設にゲイはいない」「うちではすべての入居者を『平等』に扱っている」などとしてサービスは不要だとされていく様が語られる。

結局、ここら辺は学校や企業と同じで、当事者が自らの安全のために沈黙し、埋没しているから、施設側もわからないし、ニーズも可視化されないのだ。

かつて、権利獲得運動を担ってきた彼ら。彼らをはじめとする多くの人々が路上に出て、抗議して、裁判を支援したおかげでコミュニティが勝ち取ってきた権利を、今若者が当然の権利のように享受し、プライドパレードを弾けるような笑顔で練り歩いている。それを可能にした無数の無名のシニア層は静かに「新しい戦い」に直面しているのだ。

50代まで男性として生きたクリスアン。

クリスアンは、59歳の元ベトナム帰還兵。不幸せで深刻なうつに苦しんでいたが、トランジションを開始して幸せになった。肺がんの治療を受けているが、肉体的には外科手術を受けていないので、外性器が残っている状態。「トランスジェンダーに理解のない人や施設に関わるくらいなら治療は受けたくない」として、自宅での治療を希望するクリスアンだが、息子はトランスジェンダーであるクリスアンをまだ完全には受け入れず「パパ」と呼んでくる始末。ソーシャルワーカーは、ゲイコミュニティの中で、彼女につきそってくれる人々を募集する。

38年前、ハーバードで知り合った2人。彼が死んだら僕も死のうと思ってた。

黒人のローレンスは、年上で白人のパートナーアレクサンダーの介護をもう10年も続けている。パーキンソン病による認知症が進んでいるアレクサンダーの世話をするのは大変なことだが、彼にとってアレクサンダーの世話は生きがいであり、万一彼が死んだら、生きる理由があるかわからない、と、ローレンスは感じてパートナーが死んだ後に飲もうと薬まで用意していた。しかし、LGBTの会合に出席し、詩を書き、自分の時間を楽しみ始めたローレンスにあるやがて新しい出会いが訪れる。

年配の同性カップルはある年齢以上になるといなくなってしまう、というのはよく言われている。確かに一定の年齢を超えると、みんなコミュニティから消えてしまうような気が、わたしもしていた。

もちろん自分とライフスタイルが合わない人とは、自然に疎遠になるものだが、そーゆー問題ではなく、「いない」気がしてたのだ。

ただでさえロールモデルが少ないクィアな生き方なのに、手探りで年を取っていくのはなかなか怖いことだ。

でも、今わたしたちが何か行動を起こせば、わたしたちが引退する頃にはもしかしたら、何かが少しはよくなってるかもしれない。そして、次の世代が引退する頃には、「LGBTQのユース」はもちろん、「LGBTQのシニア」にとっても、もっともっと生きやすい時代ができているかもしれない。

それは今わたしたちが、何か行動を起こすかどうかにかかってる。

Gen Silent公式サイト

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