ブックレビュー 『「イスラム国」はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想』


 本書を読まなければ、「イスラム国」が世界を揺るがす中東問題の諸悪の根源だ、というイメージに囚われそうになっていたかもしれない。


 中東ジャーナリストの著者が、パリの同時多発テロはじめ一連のテロにおける「イスラム国」の関与の検証を通し、中東の現実に目を向け、場当たり的な軍事力行使をする欧米の対応は根本的な問題解決にならず、むしろテロを助長させることを指摘している。


 「イスラム国」と組織的につながりのない世界のイスラム教徒が、インターネットを通じ同胞が虫けらのように殺戮されている状況をどうにか救援したい、その思いがテロ行為に駆り立てる事実。

 問題は「イスラム国」自体ではなく、スンニ派とシーア派の対立、自由のない強権体制の横行、絶望的な失業率などの中東の現実に焦点をあてるべきではないか。

 改めて、一言に「イスラム国が悪い」なんては言えない、と思った1冊であった。

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著者:川上 泰徳
発売日:2016/12/16
出版社:集英社

●目次
【目次】
第1章 世界に拡散するテロと「イスラム国」の関係
第2章 「イスラム国」とグローバル・ジハード
第3章 「イスラム国」とアルカイダ
第4章 「イスラム国」とアラブの春
第5章 「イスラム国」を支える影の存在
第6章 スンニ派の受難とテロの拡散
第7章 「イスラム国」と中東への脅威 




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