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(ネタバレ)『君たちはどう生きるか』と『第七の封印』

これらの見解は私たち外国人の視点からの詮索であり、何かの参考になれば幸いと思います。もし日本語の使用に間違いや不自然な点がありましたら、ぜひコメント欄でご指摘いただけますと大変助かります。

『下の世界』に足を踏み入れた後、物語のリズム、使用されている隠喩、そしてシーンの遷移技法が、初期の白黒怪奇幻想映画を彷彿とさせます。これが具体的に参考にされているのかどうかは定かではありませんが、その観点から作品を観賞するというのも興味深い試みでしょう。直感的に私たちが連想したのは、1957年のスウェーデン映画で、イングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』です。

『第七の封印』の簡単なあらすじ 映画の舞台は、十字軍遠征から帰国した騎士アントニウスとその従者ヨンスが黒死病に苦しむ祖国スウェーデンを目の当たりにするところから始まります。死神がアントニウスに死を宣告した時、彼はチェスの勝負を提案し、その時間を利用して神の存在や、生と死の意味、信仰などを確認します。

『死の地』への遍歴の旅 - 海岸辺り
映画では、騎士アントニウスが初めに辿り着くのは海岸で、そこで彼は死神と出会います。この場面は、『君たちはどう生きるか』における眞人が「下の世界」に初めて降り立つシーンと鮮やかな共通性を持っています。そのことから、おそらく、「下の世界」のこの海岸シーンは『第七の封印』の海岸から着想を得たのかもしれません。あるいは、逆に言えば、「下の世界」の海岸シーンが『第七の封印』の海岸シーンを踏まえた素描とも捉えられます。この視点から「下の世界」を考察すると、それは『第七の封印』の「死の地」のような「世界」であるとも言えるでしょう。

『死の地』への遍歴の旅 - 城
『第七の封印』の終盤、騎士アントニウスと彼の一行は、アントニウスの妻が住む荒廃した城へと辿り着きます。その城の迷宮的な雰囲気は、『君たちはどう生きるか』に登場する大叔父が築いた魔法の城の雰囲気と非常に似通っています。もし、『第七の封印』の視点からこの二つの城を考察するならば、『君たちはどう生きるか』の城は『第七の封印』の城を下敷きにしているとも解釈できるでしょう。

神秘的な「光り道」
『君たちはどう生きるか』における城の中で、光が射し込む通路のシーンは、特に印象に残るものです。実際、『第七の封印』にも、光が射す通路(正確にはアーチ型の窓ですが)が二度現れます。その一つは教会の中で、もう一つは荒廃した城の中に登場します。次の解釈は私自身の推測かもしれませんが、『第七の封印』におけるこの光り道は、そのシーンの文脈から見て、天国へと続く通路と解釈することも可能でしょう。また、皆さんが覚えているであろう『君たちはどう生きるか』の城内における光り道のシーンで、インコが倒れたヒミを運び、その光の通路を通って、満開の花が咲き誇る森へと辿り着く場面があります。その場所を見て、インコはここはまるで天国のようだのように語ります。

石とチェスの対決
『君たちはどう生きるか』の終盤に登場する、真人と大叔父との「幾何学的な石の対決」は、『第七の封印』における騎士アントニウスと死神との「チェスの対決」と比較して、興味深い対比を示していると思われます。真人が大叔父の石を「受け継ぐ」ことは、大叔父の「世界」を継承することに等しい。それは、真人が「下の世界」から抜け出ることができない、つまり現実の世界、生の世界に戻れないという意味を持ちます。一方、騎士アントニウスが死神にチェスの勝負で敗れた場合、彼が死ぬしかないという結末を示唆します。そして、これら二つの映画における「石の対決」と「チェスの対決」は、視覚的な表現として、同様の効果を持つと言えるのではないでしょうか。

ヒミとアントニウスの妻の類似性
私の個人的な解釈かもしれませんが、映画の終盤に城で登場するアントニウスの妻は、彼女の髪型や衣装が、ヒミと鮮やかな類似性を持つと思います。また彼女が火の脇で登場するシーンも存在します。

『失われたものたちの本』が『君たちはどう生きるか』の源泉であるという見解は広く認識されていますが、『第七の封印』もまた、その根底にある基盤の一部であるのではないでしょうか。少なくとも、私たちの視点から見ると、「下の世界」の構築においては、『第七の封印』が重要な役割を果たしていると感じます。

この種の白黒怪奇幻想映画は多くの隠喩を含み、解き明かすべき謎を数多く提供します。しかし私たちの視点からは、全ての謎を解き明かすことが必要とは限らないと感じます。各シーンをそのまま見て感じ、それぞれの瞬間を存分に味わうことこそが、映画の本質を理解する重要な手段であるとも言えるかもしれません。

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