見出し画像

#34想定外の…/運命の恋

業務で関わる以外、話したこともなかった憧れの社員さんを前に人見知りの私は緊張していた。けれど、冗舌な同僚と思いの外お茶目な部分のある主任、そしてひたすら気を利かす後輩くんと気付けば楽しい時間を過ごしていた。二軒目のホテルのバーで同僚とトイレに立った際、彼女が"どんな感じ?"と聞いてきた。たった2、3時間過ごしただけなのに、なぜだか私は松田君にキュンキュンしていた。こんな気持ちは初めてで、自分でもびっくりするほどだった。私のお目当ては主任のハズだったのに。
そして、それを同僚にもそのまま伝えた。

久しぶりの楽しい時間に、気付いた時には私の終電の時間は過ぎていて、家の方向が同じな同僚と高島主任、家の方向は全く違う私と松田君が一緒に帰る事になった。同僚がそうしてくれたに違いなかった。
普段は使わない中央線の終電で行けるところまで行き、そこからはタクシーで帰る事にした。金曜の終電ともなると相当な満員具合だったが、松田君が私をカバーしてくれたおかげで人に潰される事も無く無事に終点の駅に着いた。彼は常に大丈夫?と声をかけてくれ、その優しさとかなりの近距離に私の心臓は久々にドキドキした。駅に着くとタクシー乗り場にはうんざりするほどの長蛇の列…。けれど、待っている間も彼は色んな話をしてくれて楽しませてくれた。そして、次が私の番という時、彼が“使って”と言って1万円を差し出した。私は年下の彼に流石にそこまでしてもらえないと拒否したが、少し強引に右手にお札を押しつけられ、タクシーに乗せられた。
タクシーの中で私は久しぶりに感じる気持ちと初めての感情を確認していた。あのキュンキュンは母性本能なのだろうか。今まで一度も感じた事はなかったけれど。いや、違う、もしかしたら私は…恋をしたのかもしれない。

その後はトントン拍子に物事が進んだ。4人での飲み会の後、毎週末松田君とデートをした。もちろん二人きりでデートをする前に丸山君とは別れた。毎回別れ話をする時は本当に憂鬱だけれど、彼は私にあまり気持ちが無いことがわかっていたのか、すぐに受け入れてくれた。申し訳ない気持ちで自己嫌悪になる。もう二度とこんな付き合い方、しないようにしなければ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?