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階段のない高層ビル


ピンポーン。エレベーターが到着する。

扉が開く。中に誰もいない。
私は躊躇なく乗り込む。

ボタンパネルには無数の数字。
1から始まり、∞で終わる。

適当に押す。12階。

上昇中。
耳が詰まる感覚。
頭が軽くなる。

ピンポーン。到着。

扉が開く。目の前に広がるのは、
白い壁。灰色のカーペット。整然と並ぶデスク。

誰もいない。

窓から外を覗く。
雲が逆さまに流れている。

再びエレベーターへ。
今度は67階を押す。

上昇中。
体が重くなる。
呼吸が苦しい。

ピンポーン。到着。

扉が開く。
白い壁。灰色のカーペット。整然と並ぶデスク。

でも、何かが違う。

人がいる。しかし、顔がぼやけている。
声が聞こえる。意味は分からない。

窓から外を覗く。
魚が空を泳いでいる。

慌ててエレベーターに戻る。
今度は999階。

上昇中。
体が浮く感覚。
意識が遠のく。

ピンポーン。到着。

扉が開く。
白い壁。灰色のカーペット。整然と並ぶデスク。

人々の顔が歪んでいる。
口から泡を吹いている。

窓から外を覗く。
ビルが逆さまに立っている。
空には地面が広がっている。

パニックになり、エレベーターに飛び込む。
1階のボタンを必死に連打。

下降中。
耳鳴りがする。

ピンポーン。到着。

扉が開く。
ロビー。
受付嬢が微笑んでいる。

「お疲れ様でした。初日いかがでしたか?」

私は答えられない。

彼女の顔が溶け始める。
床が揺れる。
天井が近づいてくる。

目を閉じる。

目を開けると、
私はまたエレベーターの中にいた。

ピンポーン。上昇中。

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