【小説】僕が受け取った小さなピンクのプレゼント。
「んん?」
僕は思わず、すっとんきょな声をあげてしまった。
「だから……」
谷崎さんは手に持ったピンク色の紙でラッピングされた小さな箱を、早く受け取れと言わんばかりに、更に僕の方に指し出してきた。
「コレは?」
いまいち理解できない僕は、素直に受け取ることもせず、聞いてしまった。
「今日なんの日か知らないの?」
「……いや、知ってます」
何故か敬語で答えてしまった。今日は二月十四日、それはつまり……。
「チョコ?」
「別に普通の行為でしょ?」
質問を質問で返されたが、質問の答にはなっていた。
確かに女性が男性にチョコをあげる行為自体は問題ない。だが、去年も一昨年も、その前の年も、谷崎さんから二月十四日にチョコをもらった記憶は無い。
「私に恥じかかさないでよ」
義理? そう聞こうとした瞬間、谷崎さんに遮られた。
僕は谷崎さんの手から、チョコを受け取る。
「いきなりこんな事すると勘違いしちゃうよ」
少しからかうつもりで僕は言った。
「大丈夫よ」
「なにが?」
「だから……」
「……勘違いしても大丈夫よ」
時間が止まった、そんな気がした。
「あり、が、と、ぅ……」
僕はある言葉をノドの奥に飲み込み、そう答えた。
谷崎さんは優しく僕に微笑んでくれた。
僕も自然に口元が歪んだ。
チョコを机の上に置き、去って行く谷崎さんの背中からパソコンのディスプレイに視線を移す。
病気になったのかと思ってしまうぐらい心臓の鼓動が速い。
視線は簡単に移せたが、意識はなかなか谷崎さんから移せなかった。
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