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『湖の男』読みました。


『湖の男』


著者:アーナルデュル・インドリダソン
訳者:柳沢由実子


内容
水位の下がった湖から見つかった白骨遺体、頭蓋骨には穴が開いており、さらに重しにロシア製の盗聴器がくくり付けられていた。
捜査をはじめたエーレンデュル警部達はある農器具のセールスマンの失踪事件に行き当たるが。。。


ガラスの鍵賞というものがある。

それは北欧5カ国(アイスランド・スウェーデン・デンマーク・フィンランド・ノルウェー)の最も優れた推理小説に贈る賞であり、作家ダシール・ハメットの作品『ガラスの鍵』が由来となっている。

読書感想をちょいとサボっていた去年、たまたま読んだハメット作品『マルタの鷹』きっかけにガラスの鍵という作品を知りガラスの鍵賞を知り(まあ、もともとなんとなくは知っていたが)、その勢いで、


「海外ミステリーでも読んでみるか」で、

「デカイ賞をとってるんだから面白いだろう」と、色々読み漁っていたときに出会ったのがアーナルデュル・インドリダソンの『湿地』だった。

しかもこの人、2年連続でガラスの鍵賞を受賞していて、特に2度目にとった『緑衣の女』は読んでいて、本当に心が痛かった。

本作品はエーレンデュル警部シリーズの4作目(1作目としてカウントしている『湿地』は、実はシリーズ3作目。その前2つは未翻訳なので実質的には6作目)になる。

1作目の『湿地』はレイプ。
2作目の『緑衣の女』はDV(ドメスティック・バイオレンス)
3作目の『声』は、真相にちょいと引っかかるかもしれないので秘密にしとくとして、

外の世界から見えない家の中、家庭内の暗部を取り扱うシリーズなのだと思っていた。

今作は、社会主義がどうのとか、スパイがどうのとか、他人に知られてはならないという広い意味で言えば、無理矢理そう、とれなくもない。

シリーズを通しての特徴はあり、それは過去にまつわる話ということだ。

被害者、殺された人の過去。
なぜ、殺されたのか。
何が理由で殺されたのか。

そんなもの、どんな作家が書いてもついて回る事ではあるだろうが、そこが作品の中心に深く滑り込んでいるように思う。

そして捜査をするエーレンデュル自身にも過去がある。

子供の頃、父親と弟と3人、雪山で遭難し、弟だけが見つからず、何十年とたった作中内の今現在も見つかっていない。

そして離婚した妻が連れて行った子供2人にネガティブな呪詛を吹き込んだせいで、娘には怨まれ、それが原因か薬物中毒者となっている。

過去の出来事が心の鉄球となってからみついた捜査官、それがエーレンデュルなのだ。

その過去を振り払うかのように、一歩、一歩、足、足、足の捜査で真相に近づいて行く。

『誰が犯人でしょうか?』
『あぁ!コイツが犯人だったのか!わからんかった!』
なんて意外性のあるミステリーではない。


しかしそんなモノを必要としない上質な作品なのである。










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