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村谷由香里
2019年3月5日 00:15
雨が降る。銀色の水の束が絶えず落ちてくるので、わたしはそっと目を細めた。揺れる視界に、アコースティックギターを抱えたきみが映る。きみはわたしに気付くと、やあ、と言ってチューニングを始めた。 中庭の東屋は、雨と木々に囲まれていた。その中できみは、好き勝手にギターを鳴らす。「わたしその曲好きだよ」 わたしの声は雨音に消されて、君に届かない。きみは曲の続きを弾き続けた。ギターを鳴らす右手は綺麗だ