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『Ski Heil-シーハイル-』第1話

〈あらすじ〉
長野県の美しい雪景色の中、まだ小学生だった主人公・菖蒲凌(あやめ りょう)は自信に満ちた様子でアルペンスキーの大会に挑む。観客の声援に包まれながら、彼はコースを華麗に滑り降り、その技術とスピードで皆を驚かせる。地元では「天才スキーヤー」として知られ、将来を期待されていた。しかし、全国大会出場をかけた大一番での大転倒が彼の人生を一変させる。その後、東京に転校し、スキーから距離を置く生活を送る。数年後、高校の修学旅行(スキー合宿)で長野県を訪れる。そこで偶然であった同年代のアルペンスキーヤー・水仙まゆの滑りに魅了され、もう一度アルペンスキーに挑戦しようと再起する。

〈登場人物〉
菖蒲 凌:16歳 小学6年まで長野県で育つ。親の転勤の関係で東京に引っ越す。通称「リョウ」
・同級生
鈴木 大:落ち着いた性格 冷静沈着 勉強できる 通称「ダイ」
佐藤 晴太:陽気な性格 天真爛漫 好奇心旺盛 ちょいバカ 通称「ハル」

・同年代のアルペンスキーヤー
水仙まゆ:16歳 長野県でアルペンスキーに取り組む。主人公・凌が再びアルペンスキーと向き合うきっかけになる。


「第1話」
「ゲレンデに設置された旗門を通過し、そのタイムを競うスポーツ『アルペンスキー』
トップレベルの競技者であれば時速100kmを超えるスピードで滑降し、0.01秒を争う非常にシビアな競技である」
スタート台に立つ主人公の一人称視点からはじまる。
コースは吹雪いている。冷たい風が肌を刺す。 緊張と寒さから体が若干震えている。体が冷え切らないように、常に体を動かす。腿や腕を叩いたり、軽くジャンプしたり。

軽く足踏みしながら、ブーツとビンディングの感触を確認。次に足を前後にスライドさせて、スキー板の滑り具合を確認する。

無線でコース状況を確認し、スタート準備ができたことを連絡し合うスタッフたち。

スタート台に立つ。所定の位置にストックを置く。
「ポ、ポ、ポ、ピー」スタート合図の音が鳴る。
深く息を吐き、スタートを切る。
インスペクション(下見)からのイメトレ通りに旗門を通過していく。
今日はすこぶる調子がいい。体もよく動く。
一番の難関である最後の急斜面に突入。自分の前にも何人か転倒したポイントである。
「絶対全国へ行ってやる!!」
残り3旗門…
私の心に一瞬のひっかかり。
一瞬内足に体重を乗せた。外足が自分の体から離れていく。スキー板が制御できなくなっていくのを感じる。
前の走者たちによってできた雪の山に突っ込み、体が宙に浮く。
体が地面に落ちる、 その瞬間…。

○東京の高校 放課後の教室
ビクッと体を震わせて目が覚める。冷や汗をかいている。
大「うおっ 大丈夫か?」
晴太「寝ビクじゃん 俺もなったことあるわ(笑)」
大「授業中なるとハズいやつ」
二人の会話があまり聞こえていない。
大「リョウ、顔色悪いぞ大丈夫か?」
凌「あぁ大丈夫…ちょっと飲みもん買ってくる」席を立つ。
晴太「俺コーヒー牛乳で!」
凌「…ん、おけ」

教室を出て廊下を歩く。
嫌な記憶を思い出した…。
廊下でトレーニングする運動部の横を通り過ぎる。
体育館の前の自販機に到着。体育館からバスケ部、バレー部の練習している音が聞こえる。部員たちのかけ声、顧問の怒号。
みんなよくやるわ…。
お茶とコーヒー牛乳を一本ずつ買う。大にもなんとなくジュースを一本買う。
教室に戻る。
凌「ほい 買ってきたぞ」
晴太「お さんきゅ!」
大「あ、俺にも。わりぃな」
凌「あいよ」
窓の外からグラウンドで練習するサッカー部、テニス部が見える。
凌「なんでこの人たちこんなにがんばってんだろ…」
晴太「そりゃ全国とか1位とか目指してるんでしょ」
凌「全国に出れるやつなんてほんの一握り…こんなぱっとしない都立じゃなおさらでしょ」
大「そんなこと帰宅部の俺らが言う権利ないだろうよ(笑)」
晴太「たしかに」
凌「まぁ青春か…」

どうして皆がそこまでがんばれるのか理解できない…
あんな思いするのはもうこりごりだ…
「あの頃」の熱はもう無い…

○翌朝のホームルーム 
あくびしながら教室に入る凌
ハル「リョウ、おはよ!!」
ダイ「おはよ」
凌「おはよ…(ねむ)」
教室は騒がしい。
昨夜のテレビ番組、部活、恋愛など、皆それぞれ好きな話題で盛り上がっている。
担任(男)が入ってくる。
担任「おーい席つけー(朝から元気すぎだろこいつら)」
生徒たちが徐々に席につく。
担任「今日は連絡事項がある。修学旅行についてだ」
「うちの学年は長野県でスキー合宿だ」
ざわつく生徒たち。
女子生徒「長野って何が有名?」「スキーなんてできないよ」
男子生徒「え、スキーいいじゃん」「スノボ派」
晴太「おおお!!!NAGANOじゃんよ!スキーじゃんよ!」
大「こっちじゃスキーはなかなかできないからいいかもな」
周りの生徒とは異なる反応を見せる凌
晴太「おい凌、話聞いてんのか?」
大「そんなに驚いたか?」
凌「あ、あぁ…」
窓の外は曇天。

帰宅し、自室のベッドで横になる凌
凌「長野か…」
自宅の物置に向かい、ホコリを被ったスキー道具を見る。
過去の記憶が蘇る。快晴の空の下、長野県のきれいなスキー場で多くの観客の前で圧巻の滑りを見せる小学生の自分。ほんの少し高揚した気持ちにさせられる。
しかし、一瞬で現実に戻る。
凌「…くだらない…過去の栄光なんて」



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