見出し画像

【イタリアの安田侃 vol.3】 アッシジのサン・フランチェスコ聖堂で個展

2005年の6月から10月の四ヶ月間、イタリア中部に位置する中世都市アッシジで安田侃の個展が開かれました。会場は世界遺産にも登録されているサン・フランチェスコ聖堂です。

アッシジのフランチェスコ(1182〜1226)はフランシスコ会を創設、〈清貧と平和〉〈自然との共生〉を説いたキリスト教の修道士です。現ローマ教皇フランシスコが教皇名にしたことでも知られています。

その死後、聖人に列せられたフランチェスコのために立派な聖堂が建立されました。丘の傾斜地を利用して二層に、入り口となる下堂には聖者の遺骸を納めた石棺と祭壇が、上堂には聖フランチェスコの生涯を描いたフレスコ画が壁面に並びます。ジョットが描いたと伝えられている《小鳥に説教をする聖フランチェスコ》の横の出口から表へ出て右を向くと、絵画のように美しいウンブリア平野の景色が広がります。

緑と黄色と茶色、そして空の色。人工的な、ケバケバしい色は一つもありません。イタリア人の風景に対する美意識を感じる光景です。

その聖堂にある上下二つの広場に安田侃彫刻5点が展示されました。

下堂へと誘う4色の縞模様が美しい石畳が並ぶ広場には迎えるように《翔生》が設置されました。フランチェスコの人生を絵画で見てから外に出ると、芝生広場の《天翔》や《帰門》が、右を向くと《意心帰》があり、目線を風景へと導いてくれます。

画像3

展覧会は「人生を愛することは、平和を作ることだ」と名付けられました。

実現したのはヴィンチェンツォ・コーリ神父(1943-2018)のおかげです。

コーリ神父は、1981年から1989年と、2001年から2009年までアッシジ大修道院長として在籍。1986年、当時のローマ教皇ヨハネ・パオロ二世の呼びかけでヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカの各地から様々な宗教の代表者約100名が集い、それぞれの宗教儀式で行われた「平和の祈り」の実現に尽力した方です。

そのコーリ神父がフィレンツェの安田侃展を見て、ぜひともアッシジで行いたいと誘ってくれたのでした。コーリ神父がカタログに文章を寄せています。

聖フランチェスコが唱えたのは、あらゆるものの本質、そして生きる喜びとは何かということです。日本の彫刻家、安田侃の作品には、フランチェスコに通じるものを見いだすことができます。 敢えていうならば、彼の作品は、およそ芸術的創造性なるものの深淵を示しているのです。それは象徴性であり、形であり、ほとばしる力であり、それこそが生への讃歌に他なりません。

コーリ神父の考えもその延長線上にあったのでしょう。安田侃の抽象彫刻は、宗教や人種の壁を軽々と越えると信じていました。

画像1

展覧会終了後、安田侃は小さな《意心帰》を寄贈、応接間に設置されました。

1986年から30年後の2016年、再びアッシジで「第30回世界宗教者平和のための祈りの集い」が行われ、ローマ教皇フランシスコも出席しました。《意心帰》を目にし、触れた人もいたことでしょう。

画像4