見出し画像

伊藤計劃「ハーモニー」を読み解くための、参考図書5冊

先日、「ハーモニー」という作品を紹介するエントリを書きました。

このエントリを読んだ方の中には、「ハーモニー」の世界観と精神(意識)の捉え方について、荒唐無稽な話だと感じられた方もいるかもしれません。ですが、「所詮SFの話でしょ?」と切り捨ててしまうのはあまりにもったいない! なぜなら「ハーモニー」は、科学的なリアリティに十分裏打ちされた作品だからです。

ということで今回は、「ハーモニー」を読み解く上でヒントになりそうな参考図書を5冊ほど挙げてみたいと思います。この参考図書を読んでから「ハーモニー」を読み解くも良し、「ハーモニー」を読んでから参考図書で種明かしするも良し、です。


つまり、自由意志というのはじつのところ潜在意識の奴隷にすぎないんだ。

P189

まずはこちら。脳科学の知見をやさしく面白く教えてくれる本でありながら、人間らしさ(自由意志や感情)が実は曖昧なものであることを示してくれる刺激的な良書。
この本のお陰で、「ハーモニー」が脳科学の文脈に沿って描かれた作品だということを理解することが出来ました。特に2章23項の「自由意志と脳の指令」は必読です。


「”わたし”とは生命の維持機能がもたらす明滅である」

P278

人間が感じる苦しみを宗教からの知見も踏まえつつ科学的に解決する本。読みどころとしては、「自己」という概念の捉え方。「自己」はただの機能であり、苦しみを減らすためには「自己」を消す必要があり、それはトレーニングにより可能であるということが書かれています。
「苦しみ」について、「ハーモニー」のラストがラディカルな解決方法だとしたら、本書は読んだその日から取り組めるレベルの実用的な解決方法だと言えるでしょう。


脳は長大な進化の過程で、スピリチュアルなものとして「設計」された。

P8

占いや魔法に関係ありそうなタイトル。しかし内容はゴリゴリの科学本。「わたし」とは何なのか、という最大の謎を近年の研究をバンバン提示しながら解き明かしていきます。
やや語り口が露悪的なきらいはありますが、人間という存在をフラットに受け止める上で重要な一冊だと思います。ある意味で「ハーモニー」よりショッキングな作品かもしれません。


わたしたちはふつうの経済理論が想定するより、はるかに合理性を欠いている。

P20

人間はなぜ不合理な選択をしてしまうのか? を研究した行動経済学の入門書。人間がやりがちなミスの事例紹介だけでなく、対策もある程度示されています。
この本を読んで思うのは、こうした人間の弱さを工夫や精神力でなんとかカバーするくらいなら、もっと外的なデバイスやAIに行動規範や意思決定のガイドラインを示してもらった方が楽なのではないか? という発想です。予想どおりに不合理な人間が、それでも合理的に幸福を目指すのだとしたら、当然「ハーモニー」的な世界観が選択肢に入ってくると思うのです。


人間の心や意識は、脳の中でニューロンが信号を発し、あるパターンに則ってデータを処理しているだけなのである。

下巻 表紙裏

読み易くない超大作なので、「ハーモニー」と関連が強い章のみ挙げておきます。「意識」の謎を考察した上巻の第3章「人間の輝き」、「自由意志」の危うさに迫った下巻の第8章「研究室の時限爆弾」。この2つの章は必読だと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?