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SWIMMERとの美しい思い出、あるいは壮大なファンレター

(2017年に惜しまれつつ終了したファンシー雑貨ブランドSWIMMERの、2020年復活を祝して)

拝啓

わたしがあなたにはじめて出会ったのは、中学3年生の夏休みのことでした。
それはあなたに出会う時期としては、一般的に少し遅い時期だったと言えるでしょう。でもわたしはちょうどその時にあなたと出会えたこと、そこになにかしらの意味を感じずにはいられません。

受験生だったわたしは夏休みを利用して、友人と数週間の夏期講習を受けていました。最寄りの駅から電車で何個か行ったところ、わたしと友人は講習が終わると、馴染みのないその街をさも知ったような顔をして歩いて回りました。

改札のすぐ横に開かれた、駅ビルへ続く大きなガラスの扉。中へ進むとそこにはたくさんの知らない世界がありました。
お洋服、スイーツ、かわいい文房具、たくさんの誘惑に目移りする中で、はじめて目にしたあなたは一等輝いてわたしを夢中にさせました。

幼い頃のわたしは、キラキラしたものやふわふわしたスカートなどをいたく好む女の子であったと記憶しております。その一方で母は落ち着いた、シンプルなものを好み、そういったものを欲しがるとあまりいい顔をされませんでした。と同時に、「あまり女の子らしすぎるものはダサい」という思春期らしいカッコつけもあって、そのような……キラキラでふわふわしたものたちからは距離を置いて過ごしていました。
しかしあなたはそういうものを一瞬で吹き飛ばす、圧倒的なパワーを持っていました。
床に貼られたタイルのシートから、たくさんの雑貨が並ぶ棚、壁から天井まですべてが完璧に"かわいい"世界。
わたしはそれらひとつひとつをしっかりと目に焼き付けて、そしてそのまま家に帰りました。
人というものはあまりのことが起こると何もできなくなるということを、この時はじめて知りました。

それから夏期講習が終わるまで、わたしは毎日お店に足を運びました。
友人が先に帰る日も、午後から部活がある日も、講義が長引いて疲れ切った日も。エスカレーターを全速力で駆け上って店の前まで行き、2分後の電車に乗るべくそのまま走って帰った日もありました。
そうして最後の日、わたしはようやくひとつ手にとってレジに向かいました。同じクラスのおしゃれな女の子がポケットに差していた、リボンのついた半透明のラメの入った櫛。はじめてお店に来た時に気づいていたものです。お姉さんが包んでくれたその袋からテープまでまたとんでもなく可愛くて、シワにならないよう十分に気をつけながらゆっくりと帰路に着きました。


中学を卒業後、わたしは住み慣れた街を離れることになりました。少し足を伸ばせばキラキラしたものにたくさん出会えた街から一変、小さな田舎町での生活。
当時のわたしは、有り体に言うとホームシックで精神が衰弱しておりました。
人は変化に弱いものですがわたしはとりわけその性質が強く、綺麗な海も、歴史ある建築物も、見晴らしのいい坂道も、ここが美しくあればあるほど、生まれ育った街を思って泣き出したくなったものです。

そんな折、わたしは再びあなたに出会いました。

休日は決まって"観光地"と呼ばれる場所や施設で過ごしていました。そこに来る観光客はわたしと同じ余所者、のような気がしてなんだか居心地が良かったのです。
新撰組の羽織やガラス雑貨、パロディグッズを扱うお店など、どの観光地にもある、旅行でテンションが上がった人たちしか買わないだろう品々が並ぶ片隅で、あなたは静かに立っていました。

わたしは信じられない思いでしばらく立ち尽くしました。
この街には、馴染みのあるのもなんてなにもないと、そんな風に思っていたものですから。でも、あの夏、長いエスカレーターを登った先でキラキラ輝いていたあなたは、変わらず凛としてそこに存在していました。

レターセットをひとつ買って、その日のうちに友人へ手紙を書きました。
なにを書いたかは覚えていません。でも、ビニールを開ける時のシールの感触、便箋からうっすら香るインクの匂い、ペンが紙の上を滑る感覚、これらは全て覚えています。
かつてわたしが住んでいた、書き慣れた街の住所を宛名に書き、差出人にここの住所を書きました。
そこでようやく、わたしはここで暮らしていく心持ちができたのだと思います。

わたしに"かわいい"を思い出させてくれたあなたに、不安定なときを支えてくれたあなたに、感謝の気持ちを込めて。

敬具

かつてのひとりの少女より

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