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自動投稿サービスをそのままにして死んだらどうなる?

 ジェネレーターやQ&Aアプリなど、連動したSNSに自動投稿するタイプのサービスがある。これらの設定を有効にしたまま死んだらどうなるのだろう――?

事故死した男性のツイッターが「●●さんの脳内は・・・」

 2013年6月、17歳のある男性は、地元の町道をバイクで走行中に中型トラックと正面衝突して亡くなった。彼が残したツイッターにアクセスすると、持病で病院通いを続けながら、将来大型バイクにまたがることを夢見てバイトに精を出す日々が綴られている。そして、事故の後は断続的に次のようなツイートが何十件も続く。

<●●さんの脳内は「遊」15%「楽」10%「人」20%「話」10%「H」10%「宣」15%「緩」15%「言」5% ポイント:XXXpt ランキング:XXXX位 (link: http://twimaker.com… #twimaker >

 これは、ひと昔前に流行した性格診断系ジェネレーターによる自動投稿だ。アカウントの持ち主の過去の投稿などから脳内を読み取って分析してみせるというもの。登録したユーザーがサービス内で「一日一回つぶやく」などにチェックを入れていると、以降はひとりでに延々と定型の投稿がなされることになる。

 彼のツイッターは、事故に遭う2ヶ月前の2013年4月から(1日1回でない理由は不明だが、)5~6日に1回のペースで脳内分析の発表を続けている。2017年12月には一旦ストップしたものの、2018年6月にはなぜか復活し、同年8月に再び停止。そして、2019年1月に再復活している。


 彼と同じような自動投稿は、「さんの脳内は」でツイッター検索すればいくつも見つかる。大抵はただ放置されているだけのアカウントだが、筆者が把握している限りでも、死亡記事が新聞に掲載された人のアカウントは前述の男性のもの以外にもある。もちろんジェネーターは利用者の生死なんて考慮しようがない。プログラムに従って淡々とつぶやくだけだ。無機質に。何年間も。それはちょうど、亡くなった人の部屋にセットした目覚まし時計のアラームが、定時に鳴り続けるのと似ているかもしれない。


 勝手に止まったと思ったら突然復活するし、挙動が読めない。どうにか完全に止められないものか?

運営元に問い合わせると、途中で謎の電子ノイズ

 件のジェネレーターを提供しているのは、「愉快法人。」を名乗るITベンチャー。ジェネレーターブームはとうに去り、サポート用のツイッターアカウントも2015年で更新を止めているが、アプリ開発からデータ復旧事業に軸足を移し、現在も営業を続けていることが分かった。だからこそ、数年前に「終わった」サービスを提供するサーバーも生きているのだろう。原因不明の停止と復活の繰り返しも、他の業務のメンテナンスに引きずられた不随意活動のようなものならあり得なくもない。


 データ復旧事業側のサポート窓口は機能している様子だったので、そちらの問い合わせフォームに質問を送るも、期日までに返信は届かなかった。次に代表電話に問い合わせると、幸いにもジェネレーターの開発に関わったと見られる人物とつながった。そのまま口頭で質問する。


「故人の自動投稿を止める方法を教えてください」

「それはその人のアカウントでログインして止めるしかないですね」

「亡くなった人のIDやパスワードが分からない場合はどうしたらいいでしょう?」

「それは・・・ガ――――」


 突然電子音がけたたましくなり、会話できない状態になり、数秒後に電話が切れてしまった。偶発的な事故なのか意図的なことなのかは分からないが、もう一度電話しても別の部署につながるようになり、同じ人物にはつないでもらえず。仕方なく、もう一度メールで質問状を送ったが、期日までにリアクションはなかった。


 ちょっとした余興のサービス。ピークから数年経って死後の対応について質問されたら戸惑うのは分かる。けれど、予想外のやりとりではあった・・・。

故人の部屋から鳴り続けるアラームに近い

 とにもかくにも、ジェネレーター側の対応はどうも期待するのが難しい様子のようだ。ならツイッター側で手を打つしかない。故人のツイッターアカウントにログインできるなら、「設定とプライバシー」メニューから「アカウント」-「アプリとセッション」に進み、アプリ一覧のなかかから該当するジェネレーターを選んでアクセス権を取り消すことで対応できる。本人へのなりすまし問題に抵触するかは別にして、だが。


 故人のツイッターにログインできない場合は、ヘルプセンターから当該アカウントを削除を申請できる。アカウントを残しつつジェネレーターだけ消すというのは難しいのが現状だ。ツイッターの日本法人に質問したところ、「弊社以外のサービス、プロダクトについては言及を避けたいと存じます」との回答をもらった。確かにこれはSNS側ではなく、ジェネレーター側で止めるべき案件ではあると思う。

 ジェネレーターの自動投稿はそこまで大きな問題ではないかもしれない。ただ、誰も止める術を知らないアラームが死後に鳴り続ける、という事態が案外簡単に作れるということは知っておいたほうがいいだろう。

※初出:『デジモノステーション 2019年4月号』掲載コラム(インターネット跡を濁さず Vol.35)


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