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誰でも即使えるスマホのスペアキーをつくってみる

 デジタル遺品を調べる難しさは、故人のスマホのパスワードが分かるか否かで雲泥の差が出る。元気なうちは安全性を保って、いざというときは家族に伝わるようなしかけはできないものか…。いろいろ試していて、2019年の春に答えが見つかった気がした。

謎感のあるデジタル遺品は見える化するのが一番

 目で見えないものや捉えにくいものがはっきりとした形になると何かと便利だ。「見える化」といえばトヨタ自動車の生産現場に掲げられている管理パネルが著名だが、位牌や遺影もいまは亡き人を偲ぶ顕在化した拠点という意味で似た効能を持っているように思う。結婚指輪もそうだし、駅のホームの白線もそう。時代を区切るという意味で、元号もそうだろう。

 この見える化は、デジタル資産を管理するうえでもとても効果的だ。デジタルの資産にはオンライン上の契約だったり、持ち主も保管場所をよく分かっていないデータだったりが含まれることが多いし、不慣れな人からしてみればスマホやパソコンなどのデジタル機器自体がブラックボックスだ。そういう感じがデジタル資産周りには常にある。

 そのなかから「これだけは伝えないとマズい」という情報だけを取り出して紙のメモとし、実印や紙の預金通帳などと一緒に保管しておく。そうすることで、自分の身に万が一のことが起こったときに、家族が高確率で重要な情報を受け取ってくれる。これがデジタル資産=デジタル遺品における、もっとも確実な見える化術だと思っている。ただ、ひとつだけ弱点があった。盗み見られても気づきようがないところだ。

スクラッチシールで隠せばいけるんじゃ…?

 しかし、先日近所の商店街で買い物をしたときにふと解決策が浮かんだ。

 ――パスワードをスクラッチシールで覆ってしまえばいいんじゃないか?

 そうすれば、情報を知るにはシールを削るという不可逆的な行為が必要になるので、こっそり盗み見られるという心配はなくなる。すべての入力欄を覆い尽くすのは手間なので、とくに重要で秘匿性の高いもの・・・スマホのパスワードなどに絞って使うのが現実的だろう。いっそ項目を絞って名刺大のカードとし、「スマホのスペアキー」みたいにしたらキャッチーじゃないだろうか。ナイスアイデア!

 自画自賛してさっそくスクラッチシールの調達に走る。近所の文具店には置いていないと思われるので、都内の大型量販店の文具コーナーに向かったが取り扱いがなく、ネットで50枚用シートを500円で見つけて入手した。

 早速、名刺用の印刷シートを使って試してみると、確かに使える。薄い透明シートの上にスクラッチ素材が乗っているので、元の記入が水性ペンでも鉛筆でも関係なく利用できる安定性がある。

 しかし、シートのサイズがあらかじめ決まっているので記入スペースの柔軟性がない。そして、入手しにくく、なかなか値が張る。一般にお勧めするのは難しいように感じた。

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アクリル絵の具と家庭用洗剤で自作してきる

 代替案を調べていると、スクラッチシートを自分でつくる方法に行き着いた。アクリル絵の具と家庭用洗剤を混ぜれば簡単につくれるらしい。どちらも簡単に手に入るし、子供がいる家庭なら追加費用なしで実践できるんじゃないか? 早速試してみる。

 結果は厳しかった。液状の素材を塗って乾かす工程を経るので、水性ペンで書かれたメモは消えてしまう。そこは油性ペンや鉛筆を使ったり透明シートで保護したりすれば解決するが、濃い色の絵の具を使っても案外透けるので、そこそこ厚く塗る必要がある。そうなると乾きが遅くなるし、台紙に浸透してベコベコになったりもした。

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 どうにか乾いたものは、確かに透けないしコインで削ることもできた。が、市販のシートと比べると削り跡がどうにも汚い。労力に見合う達成感はそこにはなかった。ちょっと無理っぽい。

解決策はコンビニにあった

 なかば諦めつつ、昼食を買いに入ったコンビニでふと視界に入ってきたのが修正テープだった。資料のミスを修正したあと、白地になったテープに文字を書こうとしたときガリッとやって削ってしまうことがあるアレ。

 あの性質を逆に利用すればスクラッチシートの代わりになるんじゃないか・・・?

 試してみると、確かに使える。1回だとうっすら透けてしまうが、2回走らせれば鉛筆でもマジックでもしっかりと隠してくれる。スクラッチシールほど柔らかくはないが、コインで削ればきちんと剥がれてくれる。薄い用紙の場合は裏側が透ける心配があるが、厚手の紙を使ったり裏側にもテープを走らせるといった措置をすれば問題ないだろう。記入欄のサイズにも柔軟に対応できるし、コンビニに置いているくらいだから入手性も文句なし。絵の具を使うような作業の手間も準備もいらない。

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 修正テープこそが、スマホのスペアキーつくりの必須アイテムだった。実際、デザインに改良して今もセミナーやワークショップで配っている。評判は概ね上々で、実用性に対する確信は高まっている。

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安全な紙のメモをつくるのが最大の防御

 まとめるとこうなる。

1.まずは名刺大のカードに、スマホの型番やパスワードを記入する。
2.パスワードを修正テープで覆う。裏側が透ける場合はそちらも覆う。
3.実印や紙の預金通帳と一緒に保管する。
4.機種変したタイミングで作り直す。

 これさえやっておけば、少なくともスマホのロックが解除できずに苦しむ遺族はいなくなるんじゃないかと思う。ということで、今後は全力でお勧めしていきたい。

※初出:『デジモノステーション 2019年6月号』掲載コラム(インターネット跡を濁さず Vol.37)

2021年2月5日追記:スマホのスペアキーがダウンロード可能に!

 スマホのスペアキーを妻にデザインしてもらって1年半。新型コロナの影響もあり、なかなか配布する機会が持てなくなったため、PDFで誰でもいつでもダウンロードできるようにした。

 ダウンロードはこちら(古田のサイト)

 両面印刷すれば裏側が黒くなる仕様で、A4用紙に4種類作れる。ぜひ多くの人に使ってもらいたい。

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