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関わらないほうがいいデジタル遺品サービスを見抜く3箇条

 デジタル遺品サポートサービスが徐々に増えているけれど、残念ながら詐欺まがいの業者も混じっているのが現状だ。いかがわしい相手を見抜くはコツを覚えておこう。

デジタル遺品サービスの2~3割は“トンデモ”かも

 ある日の日経新聞。国内の主要企業が自社サイトで得た個人情報を他社に流す際、どれだけ具体的に利用者に伝えているかを調べた記事がトップを飾っていた。調査会社と共同で主要な100社のサイトを解析したうえで、結果をベースに各社に質問状を送付してスタンスの背景を掘り下げている。質と量がハイレベルな記事はやっぱり読み応えが違う。メディアの盛衰みたいな話もあるけれど、とりあえず一読者として純粋に楽しかった。と同時に、「一介のフリーライターじゃこの方面で太刀打ちできないな」と改めて思った。

 私はデジタル遺品調査を基本一人、多いときでも2~3人でやっている。予算もないので、様々な媒体から原稿料をもらいながら小規模な調査を積み重ねて亀の歩調で進んでいくしかない。だから、企業や団体がデジタル遺品サービスを実施すると聞いたら、ご馳走を見つけた気持ちになる。なにしろ、自分だけでは得られない事例や統計、新たな問題などに触れられる絶好の機会だ。媒体が決まっていなくても、ひとまずはメールでサービス内容の実態や疑問点について質問するようにしている。

 そうして様々な知見をもらったり、新たな情報交換の機会につないだりしてもらっている。ありがたい。が、その一方でトンデモなサービスに出合うこともゼロじゃない・・・どころか、肌感覚で2割、いや3割はある。サイトの説明に粗があり、やりとりのなかで不誠実さが確信に変わっていくというのが大抵のパターンだ。

 世間でデジタル遺品への注目が集まるなか、この割合のままなのは危険なことかもしれない。なので、トンデモなデジタル遺品サービスを見抜くコツを紹介したいと思う。

その1・・・「故人のFXが1000万円の負債に」

 デジタル遺品を放置して困った事例を紹介するのは、この手のサービスのお決まりだ。それ自体は非難するものではないが、嘘の実例を平然と載せているのは看過できない。よくあるのは、「故人のFXが死後に1000万円の負債になって遺族に襲いかかった」というもの。

 FXが持ち主の没後にマイナスに転じるケースは国内で年に数回ほど発生しているが、その額は20~30万円程度が多く、私が調査した範囲では120万円台が最大だった。少なくとも1000万円のような相続放棄レベルの額になったケースは認められない。実際に発生したとしたら話題にならないはずのない突出具合だが、業界ニュース等を探ってもそれらしい痕跡が見当たらない。にもかかわらず事実として載せている企業の公式サイトがあったので事例の詳細を尋ねたら、先方から電話がかかってきて「なんでそんなこと聞くんだ!」と怒られたこともある。

 そのほか、ネット上の痕跡を無視して「スマホやパソコンをお焚き上げしたら個人情報が守れます」とのたまったり、「デジタル遺品にある個人情報はすべて漏れます」のように、荒唐無稽なことを断言したりする表現を見つけたときも身構えたほうがいいだろう。

その2・・・生死確認がガバガバ

 死後のSNSアカウントの抹消であったり、お別れメッセージの送信であったり、デジタル遺品サービスは契約者の死が発動の起点になることが多い。そうなると、いかに生死を確実に把握するかが重要になる。だが、ここでおかしな仕組みを持ち込んでくる例もある。

 愛知県のあるサービスは「当社の全国ネットワークで、ご契約者様のお悔やみ情報を毎日チェックし、ご契約者様に万一があれば生前の支持通り実行いたします」と書いていた。

 実店舗のある金融機関もそうだが、医療介護系を除いて、持ち主の生死をリアルタイムで察知する仕組みはほとんどない。お悔やみ情報が新聞等に公開されるのは一定の社会的地位を築いたごく一部の人だけだし、身内だけで葬儀を行う場合は葬儀情報が外に出ることもない。公的な死亡証明といえる死亡診断書や火葬許可証などは当然ながらさらに公開性が低い。

 「遺族からの報告で動く」「提携している葬儀社経由で火葬許可証を確認する」などの仕組みなら現実的だが、全国ネットワークとやらは確実に虚像だ。恐ろしいことに、それをしれっとアピールポイントに盛り込むデジタル遺品サービスもある。

その3・・・堂々と「遺族が気付く前に全抹消します」

 もうひとつ注視したいのは、「遺族が気づく前に墓場まで持って行きたいデジタル遺品は抹消します」というもの。18年夏、デジタル遺品の抹消を請け負う事務所を舞台にしたドラマ『dele』が放送されてから、そうした売り文句が目立つようになっている。デジタル遺品サービスのメニューのひとつとしてはありはありだが、きちんとした対策を施していないところは警戒したほうがいい。

 何しろ法的リスクがロック解除やデータ復旧よりも数段高い。遺族に内緒でスマホやパソコンを初期化したとしたら、思い出のデータや勤務実態の証拠、故人の著作物などを一切合切奪うことになる。SNS等のアカウントを抹消する場合は、第三者が「本人になりすまして」解約等の操作をすることを認めない場合が大半だ。

 これらのリスクを把握したうえで抹消サービスを提供しているところは、抹消する中身を精査したうえで死後事務委任契約を結んだり、抹消までの手ほどきを伝えるに止めたり、「可能なかぎり対応します」と個別に検討する旨を記したりと、何らかの対策が立てられている。

 そうした注意書き一切なしで「不倫の証拠、恥ずかしいデータ、お任せください」みたにざっくりとした表現で言い切っているところは、対応実績がないとみて間違いないだろう。

 数年前に比べて、デジタル遺品に対応してくれるサービスは確実に増えていて、きちんとしたところにはノウハウもたまってきている。「玉」は育ってきているので、くれぐれも「石」に躓かないよう、ご注意を。

※初出:『デジモノステーション 2019年5月号』掲載コラム(インターネット跡を濁さず Vol.36)

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