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〈自由詩〉心の隙


やけに静かに思える時がある


昨日と同じ、いつもの朝

すれ違う人も同じ
猫が寝る場所も同じ
電車のタイミングも同じ

何一つ変わらない午前八時


自分だけが浮いている
世界が違って見える

澄んだ晴れの朝

楽しいことがあったような
思い出をどこかに残したような


ふわふわと、空気がまとう
風に流れる

だんだんと

沈む

遠ざかる

意識が宙に散る


人が人に見えなくなっていく
それを嫌だと思う

満員電車でじっと囲まれる
急いでとにかく走る影
エスカレーターまでの行列

すれ違う、追い越される

進む


人ごみのすり抜けがうまくいかない人
後ろからリュックでぐいぐい押す人

社会の場所がわからない

演説のスピーカー
喫煙所の煙
大型トラックのエンジン音

綺麗だと思っていた
泥が注がれる隙間

辺りを揺らす


がやがやと、心を蝕む
喧騒に流される




ようやく一日が始まる




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