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【短編小説】今日は家で

1,091文字/目安2分


 だいぶ日が伸びてきたものの、あたりはもう薄暗くなっていた。

 大学生活にはすっかり馴染んでいるが、一つの講義の時間が高校の時までと比べて倍くらいはあるのは時々しんどい。しかも必修科目が重なって、終わりが一番遅い日だ。そろそろ就活のこともちゃんと考えないといけない。

 なんだかやけに疲れた。キャンパスに近いアパートでよかった。今日は帰り道に弁当でも買って、家でゆっくりと過ごすとするか。

 太陽は沈み、家の間に隠れて、青い空の奥のほうを赤く染めている。まばらに浮かぶ雲もまた赤く、そして白、黒と色づく。少しちぐはぐだが見事な夕焼け空である。

 こういう感じ、いいな。今日の疲れが空に溶かされていくような気がして、なんとなく心地良くなる。

 大学から家まではほとんど一本道である。キャンパスは住宅街にあって、その中を進んでいくと商店街が見えてくる。商店街の真ん中あたりに駅があって、さらに越えるとだんだん静かになって、また住宅街になる。小さな公園が一つあって、そのすぐ近くのアパートに住んでいる。

 商店街は賑わっていた。通りにはいろいろな店が並んでいる。チェーンの飲食店もあれば、服なんかが置いてある店、貴金属の買取、小さなディスカウントストア、八百屋、酒屋、からあげ屋、などなど。駅の近くにはカフェやら大きめのスーパーやらパチンコ屋やらが建っていて、わりとガチャガチャしたところだ。

 通りから一本外れたところに、最近見つけた昔ながらの惣菜屋さんがある。コロッケ、ハムカツ、フライなど、主に揚げ物をやっているのだが、そこで売っているのり弁が個人的にお気に入り。よし決めた。買って帰ろう。ついでに近くのスーパーでデザートも買って、家に着いたら風呂も沸かそう。あ、そうしたら入浴剤も買って気分でも上げるか。スーパーに瓶の牛乳って売っていたっけ。

 ああ、楽しくなってきたぞ。自然と歩くスピードが速くなる。その頃にはもう疲れも忘れていた。まずは駅のスーパーに行って、入浴剤と牛乳瓶とデザートだ。

 店に入ろうとした時に、同じサークルで中学の時からの友人と鉢合わせた。

「おー、お疲れ」
「おー」
「今終わり?」
「そう、今日は必修が3つあって」
「まじか、やば」
「めっちゃ疲れたわ」
「お疲れお疲れ」
「何してんの?」
「そう、さっきいつものメンバーでカラオケ行ってて」
「いつメン?」
「いつメン。で、これからうちで宅飲みなんだけど、来る?」
「まじか、行くわ」
「よっしゃ」
「あ、でも教科書家に置いてきていい? めっちゃ重い」
「おっけ。今みんなスーパーで買い物してるから。また連絡して」
「おっけー」
「んじゃまた」
「あいよ」

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