円安が止まらないことによる、最も大きな懸念

円安が止まりません。

現在、1USドルが約148円で取引されており、日銀の介入や抜本的な金融対策がなければ、近年で最も円安が進んだ昨年10月のレベルを突破し、1USドル=150円を超えるのも時間の問題と考えられます。

ちなみに、私が住むシンガポールには中央銀行は存在せず、シンガポールドルの価値の変動には通貨バスケット制を採用しています。通貨バスケットの構成通貨は正式には開示されていませんが、USドルの比重が最も高いため、シンガポールドルの対日本円のレートは基本的にUSドルのそれと非常に高い相関性があります。

私がシンガポールに移住した2015年11月、1シンガポールドルは86円だったのに対し、現在では過去最も円安である108円に達しています。5シンガポールドルのチキンライスを例に取って単純計算すると、2015年には430円で食べられていたのに、今では540円必要ということになります。チキンライス一食分だけで考えれば大した差ではないかもしれませんが、これがあらゆる消費に適応されるので、それら全て円換算すると、ここ数年で起こった劇的な変化に改めて驚かされます。

アメリカをはじめとした世界経済の主要国は、インフレ抑制のために積極的に利上げを進めている一方、日本はデフレ脱却が困難な状況にあることから、金融緩和政策を継続しており、この状況が続く限りは円安はますます加速します。そうなると、日本では輸入品の値段が留まることなく上がり続けます。

ロシアのウクライナ侵攻などの世界情勢による資源の供給不足も、輸入に頼っている日本には非常に不利です。輸入に依存している食品の値段が上がるのに輪をかけて、原油や天然ガスなどのエネルギー価格の高騰から経済成長が鈍化していきます。これは当然日本経済全体のリスクにつながるため、円売り圧力がより一層強まっていきます。

日本には1億人の消費が支える巨大な国内需要が存在するので、今すぐ経済崩壊するわけではないでしょう。輸入品への依存度を減らす等の個人の努力や対策をすれば、支出を抑えて生活を維持することも可能でしょう。ただ、私がこの円安で最も危惧しているのは、日本人が海外に出る機会が一気に減ることなのです。

今までできていた海外旅行が日本での稼ぎでは難しくなり、海外への留学や移住など夢のまた夢となる可能性があります。そうなると、国外のスタンダードやより良い仕組みを学ぶ機会が激減するだけではなく、日本の良いところを海外にアピールする機会も減り続けることとなります。インターネットやニュースで見る世界の姿と、実際に肌で感じる異文化は刺激の強さも記憶に残る強さも全くの別物です。海外に遅れを取ってはいけないという気概があるうちは、まだお金を貯めて外の世界を見てやるぞ、という気持ちが湧いてくるのでマシかもしれません。ただし、自然に国内での経済に依存した仕組みに慣れてしまうと、無理に海外に目を向けなくてもいいかという気持ちが強くなり、その間に日本人の個人の経済力や消費力は相対的に外国とどんどん差がついてしまいます。

外国からの視点ではこれと全く逆が起こります。現在では相対的に安い国に見えてしまっているかつての経済先進国、日本から積極的に学び、自国の発展に役立てようという人で世界は溢れています。世界もお人好しばかりではなく常に競争です。あわよくば、日本の技術や資源を安いうちに自分のものにしてしまおうと考える国や人も、当然たくさんいます。

古来から日本人は異文化や異国から学び、自分たちのコミュニティーや製品に応用することを得意としてきました。その流れがマクロ経済のせいで一気に閉ざされてしまうと、特に若い世代で日本人の海外文化や価値観を学ぶ機会が減少し、日本社会の多様化の遅れや国際的な視野が欠けてしまうことにつながります。私は、円安による価格高騰や経済的リスクだけではなく、そこから派生した国際力の低下や海外に出るモチベーション低下について大きく危惧しているのです。