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スキーマを広げる(5):認知的不協和

▼今回の「スキーマを広げる」は認知的不協和(cognitive dissonance)です。これをテーマにした英文は,2018年度北海学園大学[2月9日]などで出題されています。

▼認知的不協和とは,アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー(Leon Festinger, 1919年5月8日―1989年2月11日)によって提唱された概念で,矛盾する認知を抱えた状態やその時に感じる不快感を表す言葉です。

One of these studies was conducted in 1957 at Stanford University by Leon Festinger. The study is about the concept of cognitive dissonance. Cognitive dissonance refers to the uncomfortable feeling of having conflicting attitudes, beliefs, or behaviors. In order to minimize or eliminate the discomfort and restore balance, the person must change one of the attitudes, beliefs, or behaviors. Leon Festinger did an observational study of a cult that believed that the earth was going to be destroyed by a flood. He wondered how these people had come to believe such a strange idea. To answer the question, he hit upon the idea of cognitive dissonance. He discovered that, to be comfortable in the cult, its members had been obliged to change their beliefs about the world.
(これらの研究の一つは,1957年にスタンフォード大宅でレオン・フェスティンガーによって行われた。その研究は,認知的不協和の概念に関するものである。認知的不協和とは,矛盾する態度,信念,行動を持っているという不快な感情のことを指す。その不快感を最小化したりなくすために,そしてバランスを回復するために,その人物は態度,信念,あるいは行動の一つを変えねばならない。レオン・フェスティンガーは地球が洪水によって破壊されると信じている,あるカルトの観察研究を行った。彼はこの人々がどのようにしてそのような奇妙な考えを信じるに至ったのか,疑問に思った。その問いに答えるために彼が思いついたのが認知的不協和という考えであった。彼が発見したのは,そのカルトの中で快適にいるために,カルトのメンバーは世界についての自分の信念を変えざるを得なかったということだった。)
(2018年度北海学園大学[2月9日実施]第2問より[出典不明],太字引用者)

▼認知的不協和を説明するためによく用いられる具体例としては,イソップ寓話の「キツネとすっぱい葡萄」の話があります。この物語の中では,キツネが以下のような矛盾した認知を抱えます。

【認知①:葡萄が食べたい】⇔【認知②:葡萄に届かない】

▼これを解消するために,キツネは「あの葡萄はすっぱいからどうせ食べられやしないのだ」という【認知③】を持ち出します。

▼また,身近な例としては以下のようなものも考えられます。

【認知①:ダイエットしなければならない】⇔【認知②:食べたい】

▼この認知的不協和を解消するために,たとえば【認知③:カロリーをコントロールするサプリを飲むから大丈夫】とか【認知③:明日から本気出す】といった考え方を持ち出します。いわばこれは「人はなぜ『言い訳』をするのか」といったことでもあると言えるでしょう。「言い訳」は,認知的不協和を解消する手段である,と考えることができます

▼認知的不協和(cognitive dissonance)という表現は,以下のように,価値観の対立した状態を表す表現として用いられています。

Over the past 50 years, Asia has undergone a wrenching crash course in economic and political modernization. A wealth of new possibilities are now available to Asians across the region, yet many of those choices ― what to buy, where to work, whom to marry ― come into conflict with the old interdependent values still held by society or by their families. "There is enormous stress in these traditional cultures," says Aaron Ahuvia, a professor of marketing at Michigan. The result can be a kind of cognitive dissonance that leaves Asians individually freer but perhaps less happy, at least in the short run.
(過去50年に渡って,アジアは経済的・政治的な近代化の中で衝撃的な衝突の過程を経験してきた。多くの可能性は,今やアジア人にとって,地域全体で手に入るものである。しかし,何を買うべきか,どこで働くべきか,誰と結婚すべきか,といった選択肢の多くは,社会や家族がまだ持っている古い相互依存的な価値観と対立する。「これらの伝統的な文化には大きなストレスがある」とミシガン大学でマーケティングの教授を務めるアーロン・アフビア氏は言う。その結果,一種の認知的不協和が生じ,それによってアジア人は,個人的にはより自由になるが,少なくとも短期的には,おそらく幸福度は低くなるかもしれない。)
(2008年度昭和大学医学部[3月9日実施選抜Ⅱ期・一次試験]第6問より[出典不明])

▼もちろん,この言葉を知らなくても英文は読めますが,知っていれば,「どんな認知が対立しているのか」と考えながら英文を読みするめることができるはずです。

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