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『読むだけ英単語』【3】

▼近頃,サンドイッチやハム,ソーセージ,チーズなどを売るお店を「デリカテッセン」「デリ」と呼ぶことがあります。英語では delicatessen(短縮語:deli)と表しますが,これは18世紀にドイツで始まったスタイルのお店で,delicatessen という単語もドイツ語の “delikatessen”(「美味しいもの」を表す  delicatesse の複数形)から借用したものです。このスタイルのお店は19世紀半ばにアメリカに広まり,実際,英語の文献に delicatessen という単語が登場したのもその頃で,Oxford English Dictionary には1877年の文献からの引用が最古のものとして掲載されています(短縮語の deli は第二次大戦後に文献に登場しています)。

[1877 E. S. Dallas Kettner's Bk. of Table 399 A house which abounds in foreign dainties of all sorts—Lingner's Delicatessen Handlung, 46, Old Compton Street, Soho.]

Oxford English Dictionary, “delicatessen” の項目より

▼delicatessen の元になったドイツ語の delikatesse も,さかのぼればラテン語の形容詞 dēlicātus(喜びを与える)がおおもとで,そこからイタリア語のdelicatezza →フランス語の délicatesse となってドイツ語に入ってきたようです。

[German Delikatessen, from pl. of Delikatesse, delicacy, from French délicatesse, from Italian delicatezza, from delicato, delicate, dainty, from Latin dēlicātus, pleasing; see DELICATE.]

https://ahdictionary.com/word/search.html?q=delicatessen

▼そういえば,昔,こんなCMがありました。評論家の竹村健一さんが出演し,「『デ』リシャスじゃなくてデ『リ』ーシャスよ,奥さん」という決め台詞が有名になったキッコーマンのデリシャスソースのCMです。

▼この delicious という単語は「美味しい」「気持ちの良い」という意味ですが,この単語の綴りと,先ほど挙げた delicatessen の綴りにはどちらも “delic” という文字が含まれていますね。一体,このつづりはどういう意味なのでしょうか。

▼この de- は「すっかり」という「強意」を表し,lic(i) とは「虜[とりこ]にする,わなにかける」という意味を表します。ですから, delicious とは「すっかり虜にする性質を持った」という意味になります(-ous は形容詞を表す接尾辞です)。確かに,美味しいものを食べると,完全に虜になって,永遠に食べ続けたくなりますよね(笑)。私事ですが,先日,誕生日を迎えた際,友人がお祝いにとある居酒屋(岡山にある,予約困難な超人気店)で御馳走してくれました。そこで食べた毛ガニとワタリガニがこれまたもう美味しくて美味しくて。どちらも既に身が剥かれて甲羅の中にぎっしりと詰め込まれていて,いちいち身を剥かなくてもいいようになっているため,ただひたすら口いっぱいにほおばるだけでした。さすがにお高いので「おかわり!」とは言えませんでしたが(苦笑),まさに「デ『リ』ーシャス」,虜になりました(笑)。

左が毛ガニ,右がワタリガニ。ポン酢ジュレがかかってます。

▼ところで,先ほどの delicatessen という綴りを見ていると,その中に delicate という綴りが含まれていることがわかります。日本語でも「デリケートな」という表現はよく用いられていますが,この単語も delicious と同様に,〈de-(すっかり)+ lic(虜にする)+ ate(形容詞)〉という作りになっていて,もともとはラテン語の dēlicātus(心を奪う,魅力的な,優美な,柔らかい,柔弱な)という単語が語源です。そこから delicate にも「優美な」「繊細な」「精密な」「か弱い」「柔らかい」「細心の注意を要する」「よく気のつく」「(あっさりして)おいしい」「気難しい」といった意味が生まれました。「うっとりと虜にしてしまう」ことから「優美な・繊細な」→「細心の注意を要する」→「気難しい」となったのでしょうね。

▼この delicate の名詞形が delicacy です。こちらも日本語で「あの人はデリカシーがない」なんて使い方をされますが,もともとは「(虜にするほど)感覚に訴えかけるような喜び」という意味で,「満足感」「贅沢」を表すこともあったそうです。そこから「美味しいもの,美味,ごちそう,珍味」という意味や,また,delicate の名詞形として「優美さ,上品さ」「繊細さ,敏感さ」「精巧さ」「扱いにくさ」「か弱さ」「細心の注意を要すること」「心遣い」といった意味もあります。大学入試では「美味しいもの,ごちそう」の意味が出題されることがありますので,是非おさえておきましょう。

▼さらにもう一つ,綴りは少し異なりますが,delight という単語も紹介します。この単語は〈de-(すっかり)+ light(とりこにする)〉という作りです。なお,この light は「光」や「軽い」という意味とは無関係で,もともと古いフランス語の delit / delitier(魅了する)から派生した言葉です。Oxford English Dictionary によると,以前は delite と綴られていたのですが,light や flight といった単語の綴りに引っ張られて,16世紀初頭には delight と綴られるようになったそうです。

delight は,名詞ならば「大喜び,歓喜」,動詞ならば「(人を)大いに喜ばせる,楽しませる」(自動詞として用いられる場合「喜ぶ,楽しむ」)といった意味になります。

▼では,今回お話しした単語をもう一度確認してみましょう。

  • delicatessen

  • delicious

  • delicate

  • delicacy

  • delight

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