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疾風の隼人,続編を熱望!

▼大和田秀樹さんの『疾風の隼人』という漫画があります。2016年から2017年にかけて『モーニング』誌に連載されていた作品で,単行本は全7巻出ています。

▼その名の通り,主人公は池田勇人元首相で,彼が戦後の復興期において吉田茂元首相に抜擢され,主に日本の独立前後までどのような活躍をしたのかをユーモラスに描いた「史実を元にしたフィクション」です。

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▼残念ながら,彼が首相になるまでは描かれておらず,やや中途半端なところで終わっている印象もあることと,後半で公職追放が解除されて正解に復帰した岸信介元首相の姿が怪物のように描かれていることから(私は『ハリーポッター』に登場するヴォルデモート卿を連想しました),政治的圧力によって打ち切られたのではないか,という憶測も飛び交った作品です。なお,「圧力」については以下の記事にあるように否定されています。

▼池田勇人を主人公としていますが,吉田茂,佐藤栄作,宮澤喜一,大平正芳,田中角栄といったいわゆる「吉田学校」の面々や白洲次郎等,サンフランシスコ講和条約で日本の独立を成し遂げた中心人物が準主役で,公職追放が解除された後に登場する鳩山一郎,岸信介,石橋湛山,三木武吉,河野一郎らが「ヒール」的な立場で描かれており,鳩山たちを「戦前のままで感覚が止まっておる」と吉田茂が批判するセリフがあったり,当時の自由党と民主党の泥仕合やら生臭い派閥争い,裏切りなどドロドロした部分が描かれていますから,確かに「圧力」を勘ぐりたくもなりますが,それはともかくとしてやはり驚くべきは,今,日本の政治の中枢にいる人々がこの時代の中心人物と繋がりがある人々であり(一コマだけ,ライフルを持った麻生太郎副大臣の若い頃が登場します),日本の政治は戦後の75年間,もっと言えば,明治維新からの120年間に渡って,根本は何にも変わってこなかったのだ,ということでしょう。

▼歴史漫画と言えば,みなもと太郎さんの『風雲児たち』という作品も有名ですが,この作品では幕末の志士たちを描くために,それより二百数十年前の関ヶ原の戦いとその戦後処理から物語を始めています。

▼なぜ,幕末の志士たちが薩長土肥から出てきたのか?その理由が,徳川家康を初めとする江戸幕府が彼らをどう扱ってきたのかと密接にかかわっている,ということです。そして,明治維新を成し遂げた幕末の志士たちがその後,明治政府で要職につき,その子孫たちが今も日本政府の中枢を牛耳っているのですから,今の日本の政治の仕組みのあり方とその問題点は,実はその大元が400年以上前にまで遡ることになる,とも言えるでしょう。

▼ついでに,これは私自身の個人的な体験なのですが,以前,徳川幕府の資料展を見に行って驚いたことがあります。それは,徳川家康が幕府を開くために時の後陽成天皇が家康を征夷大将軍に任命した宣下(宣旨)の文書が残されていたことです(日光東照宮に保管されています)。本来,革命が起きた場合,倒された権力者についての資料は焼かれたり廃棄されたりすることが多いのですが,明治維新が起きても日光東照宮は焼き討ちに遭うこともなく,徳川幕府の宝物は保管されていたわけです。実はその時たまたま,徳川家の歴史に非常に詳しい方と一緒だったので「どうしてこのように残されているのでしょうか」と尋ねたところ,「おそらく,あらかじめ何らかの策を講じていたのではないか」とのことでした。

▼革命が起きて,支配体制が白紙になれば,新しい支配者はゼロから体制作りをせざるを得ず苦労しますが,それまでの体制の基盤を引き継ぐことが出来ればそれほど苦労する必要はないわけです。とりわけ,日本の場合,権力の裏付けとなる権威,つまり天皇の存在があるわけですから,そのあたりが日本の権力者の連続性を支える鍵となっているのでしょう。

▼閑話休題。『疾風の隼人』は,是非,続編を読んでみたいと思う作品です。漫画というメディアを通じて戦後の日本のあり方をより多くの人が知ることは,今の日本のあり方や,これからのあり方を考える上で不可欠なのですから。もちろん,フィクションではありますが,それが歴史を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。

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