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中州と繁華街/歓楽街の親和性

▼「なかす」という言葉を聞くと,博多にある歓楽街を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もちろん,固有名詞としては博多の「中洲」が有名ですが,普通名詞としての「中州」は川の中にある土砂が堆積した陸地のことで,世界中どこにでも見られる地形です。

▼しかし,この中州という地形は,博多の中洲に見られるように,繁華街や歓楽街と非常に親和性の高い地形でもあると言えます。ひとつには,中州があるところは川幅が広いため橋をかけやすく,交通の要所になり,船で川を行き来する時にも利用しやすいということが考えられますが,それに加えて,歴史的な背景もあるのではないかと考えられます。

▼歴史学者の網野善彦氏が論じたように,中世において,中州や河原には「無宿・無縁」の遍歴する人々が集まり,商売や芸能などの文化が発展していきました。中州に繁華街や歓楽街があるのは,おそらくそうした歴史的経緯があるためではないでしょうか。

▼私は岡山に住んでいるのですが,岡山市内に「中島」という地域があります。ここは旭川の中州で,今では住宅が並んでいますが,かつては遊郭があった場所でした。

▼広島にも「中島」という地名があります。ここはかつて広島市内随一の繁華街でしたが,そこに通じるT字型の相生橋が原爆投下の目印となり,原爆で跡形もなく焼き払われました。その跡地に平和記念公園が作られています。おそらく,最近では漫画・映画『この世界の片隅に』の中で被災前の賑やかな様子が描かれたのを見て知った人も多いのではないでしょうか。また,2020年7月に刊行された『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』という写真集でも取り上げられています。

▼そして,福山には「草戸千軒」という有名な遺跡があります。福山を流れる芦田川の中州に存在していた中世の商業地区で,13世紀から16世紀初頭まで存在していたと考えられています。

▼そういえば,私が「なかす」ということばを始めて聞いたのはおそらく小学生の頃,この歌だったのではないかと思います。

「今日はヨシワラ ホリノウチ ナカス ススキノ ニューヨーク」

…今思えばものすごい歌詞ですね(笑)。小学生がこれを意味も分からずに大きな声で歌っていたのですから,ビートたけしさんとしては「してやったり」ではないかと思います。

▼しかし,考えてみればこの歌詞に登場する地名のうち,ススキノを除けばすべて「中州」のように川や水に囲まれている,というのは実に象徴的だと思います。

▼「ヨシワラ」は台東区にある吉原のことで,今ではソープランド街として有名ですが,かつては遊郭があり,周囲を堀に囲まれていました。「ホリノウチ」とは神奈川県の川崎市にある堀之内ことで,ここも現在ではソープランド街ですが,「堀之内」という地名から察するに,周囲を堀で囲まれていたのかもしれません。

▼ニューヨークは,マンハッタン島がハドソン川河口に位置する中州です。世界で最も栄えた中州だと言えますね。

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