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スキーマを広げる(3):ボノボ

▼「スキーマを広げる」第3回目は,ボノボ(bonobo)という霊長類です。哺乳綱霊長目ヒト科チンパンジー属に分類され,ピグミーチンパンジーとも呼ばれることがあります。アフリカのコンゴ民主共和国の森の中に生息し,絶滅危惧種に指定されています。

▼ボノボは普通のチンパンジーと比べると一回り小さいのですが,群れで社会生活を営み,また,緊張状態を緩和するために互いの性器をこすりつける行動が観察されています。このように繁殖のための生殖行為以外で性器を用いる動物は非常に珍しいとされています。ちなみに,これを発見したのは日本人の研究者で,雌同士が性器をこすり合わせるのは「ホカホカ」,雄同士は「チャンバラ」と命名されました。

▼ボノボの中でおそらくもっとも有名なのが,アメリカのスー・サベージ・ランボー博士のもとで飼育されているカンジ(Kanzi)とパンバニーシャ(Panbanisha)の兄妹です(パンバニーシャは2012年に亡くなりました)。

▼カンジとパンバニーシャはは人間の言葉を理解し,音声が出る絵文字のついたキーボードを用いて自分の意思を伝えることができます。人間で言えば2歳半ぐらいの子どもと同じ程度の知能があるとされています。詳しくは以下の動画を参照してください。

▼ボノボが入試によく出題されるのは,「人間は特別な生き物なのか」という古くからの問題に対して一石を投じる存在だからだと言えます。カンジやパンバニーシャのような事例は特別なものかもしれませんが,少なくとも彼らがかなり高い知能を持ち,ある程度人間と意思を疎通させることができているということは間違いないと言えるでしょうから,デカルト以来連綿と続いてきた「言語と思考は人間だけに特有のものである」という考え方が覆される可能性が生じているのです。これは「スキーマを広げる(2)」で扱った馬のハンスと関連した問題です。ハンスの場合,言語能力を有しているとは言えませんでしたが,カンジやパンバニーシャはひょっとしたら言語能力があるのではないか,と考えられているのです。

▼ボノボの「カンジ」を扱った英文が出題された大学としては,以下のようなところがあります。

▼2019年度
・名古屋大学前期日程
▼2018年度
・酪農学園大学獣医学部
▼2017年度
・高崎経済大学前期日程
・和歌山大学前期日程
▼2009年度
・立命館大学[2月9日実施]

▼2010年度立命館大学[2月4日実施]では,パンバニーシャについての英文が出題されました。その出典は以下の記事です。

▼この記事では,パンバニーシャがスー博士に対し,絵文字のキーボードを使ってて "Fight","Mad","Austin"というメッセージを繰り返し伝えます。Austin とはそこで飼育されている別のチンパンジーの名前です。スー博士が "Was there a fight at Austin's house?"(オースティンの家で喧嘩があったの?)と尋ねると,パンバニーシャは "Waa, waa, waa" と返事をします。スー博士はこれが Yes を意味すると考え,オースティンのいる建物に言って確認したところ,実際,そこにいる親子のチンパンジーがゲームのジョイスティックをめぐって喧嘩をしていたことが判明しました。

▼餌を求めるためではなく,こうした「ゴシップ」を伝えるために絵文字のキーボードを用いたということは,言語能力を持っているということだとは言えないでしょうか?この記事によれば,大半の言語学者はそうした見解に対して否定的な見方をしているとのことです。この記事では,そうした否定的な見方をしている専門家の代表例として認知科学者の Steven Pinker(スティーブン・ピンカー)と言語学者の Noam Chomsky (ノーム・チョムスキー)の二人の見解が引用されています。確かにボノボと人間の脳の構造が異なる以上,人間と同様の言語能力があるとは言えないかもしれませんが,それでも上に挙げた動画を見ると,「ひょっとしたら…」という思いは捨てきれません。

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