見出し画像

「つながり」を読み解く英文読解(6)~同一表現の繰り返しを避けながらつながりを作る仕組み④~

▼これまで「同一表現の繰り返しを避けながらつながりを作る仕組み」について説明してきました。①~③は「文法」に関係する仕掛けでしたが,今回の④は「語彙(単語・熟語)」に関係する仕掛けです(*1)。そして,今回の④で「同一表現の繰り返しを避けながらつながりを作る仕組み」はひとまず終了となります。

▼今回の④で扱うのは,次の3つの仕掛けです。
[01.60] 類義語・反意語を使って言い換える
[01.70] 上位語/下位語を用いる(抽象化⇔具体化)
[01.80] 部分語・関連語を用いる

【1】類義語・反意語を使って言い換える

▼似た意味の表現(類義語)を使って言い換えたり,反意語を否定する(dislike[…を嫌う]をdon’t like[…を好まない]にするなど)ことで,反復を避けながらつながりを生み出す方法もあります。

▼どの表現がどのように言い換えられているのかを考えながら次の英文を読んでみましょう。

ex-1) “Family policy is an investment in society,” declares France's prime minister, Jean-Pierre Raffarin. Put another way, it means the state will stump up some euro1.2 billion ($1.3 billion) a year both to boost the nation's birth rate and to make it easier for France's mothers to rejoin the labour market.
(2004年度専修大学経済学部・商学部・文学部)
http://www.economist.com/node/1752435
〈語彙〉□ policy 政策  □ investment in A Aに対する投資  □ declare 宣言する  □ prime minister 首相  □ put another way 言い換えれば  □ stump up A Aを(しぶしぶ)払う  □ billion 十億  □ boost O Oを高める  □ birth rate 出生率  □ rejoin O Oに復帰する  □ labour market 労働市場
〈和訳〉「家族政策は社会への投資だ」と宣言したのはフランスの首相・ジャン・ピエール・ラファランである。言い換えれば,その国の出生率を高め,フランスの母親たちが労働市場に復帰しやすくさせるために,その国は1年間におよそ12億ユーロ(13億ドル)を払うつもりであるということだ。

⇒1文目のFrance(‘s)が2文目ではthe stateとthe nation(‘s)に言い換えられています。また,1文目のinvestment(投資)が2文目ではstump up([金を]払う)と言い換えられている(※品詞は異なります)ことにも注意しましょう。

ex-2) Japanese people have special tools that let them get more out of eating sushi than Americans can. They are probably raised with these utensils from an early age and each person wields millions of them.
(2015年度横浜市立大学前期日程)
http://blogs.discovermagazine.com/notrocketscience/2010/04/07/gut-bacteria-in-japanese-people-borrowed-sushi-digesting-genes-from-ocean-bacteria/
〈語彙〉□ let O do Oに…させる  □ utensil 道具  □ wield O Oを使う
〈和訳〉日本人は,寿司を食べることからアメリカ人よりも多くのものを得られるようにしてくれる特別な道具を持っている。彼ら(日本人)はおそらく,幼いころからこうした道具とともに成長し,それぞれの人が数百万個のその道具を使っているのだ。

⇒1文目のtoolsを2文目ではutensilsに言い換えています。なお,2文目の文末にあるthemはutensils(=tools)のことを指しています。

【2】上位語/下位語を用いる(抽象化⇔具体化)

▼「A」ということばが表すものが「B」ということばが表すものの中に含まれている場合,AとBを上下の関係で表し,AはBに対する「下位語」,BはAに対する「上位語」と呼びます。

上位語と下位語の関係は〈上位語=抽象/下位語=具体〉と考えることもできます。そのため,具体例の提示では,上位語を下位語で具体化することもたびたび見受けられます。たとえば dog(犬)に対して mammal(哺乳類)は「上位語」にあたります。逆に,mammal に対して dog は下位語にあたります。

上位語〈抽象〉 mammal
下位語〈具体〉 cat / dog / dolphin / horse / whale …

▼〈「つながり」を読み解く英文読解(2)~ケッ,お高くとまりやがって!~〉のex-1の例文では,dolphins and porpoisesがmarine mammalsに言い換えられ,さらにそのmarine mammalsがsea mammalsに言い換えられていたのを思い出してください。この場合,「海洋哺乳類」が上位語,イルカとネズミイルカが「下位語」にあたります。

▼では,「上位語/下位語」の関係に注意しながら次の英文を読んでみましょう。

ex-1) 19th-Century palaeontologists noticed that the ancient ancestors of modern mammals often tended to be smaller; horses, for example, can be traced to the dog-sized Eohippus genus of 50 million years ago.
(2016年度同志社大学[2月7日])
http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-31533744
〈語彙〉□ palaeontologist 古生物学者  □ ancient 古代の  □ ancestor 祖先  □ modern 現代の,近代の  □ mammal 哺乳類  □ trace A to B AをBにまでたどる(さかのぼる)  □ genus 属(生物の種類としての)
〈和訳〉19世紀の古生物学者たちが気付いたのは,現代の哺乳類の大昔の祖先たちはもっと小さくなる傾向があるということだった。たとえば馬は,5千万年前の犬の大きさのエオヒップス属にさかのぼることができる。

⇒modern mammalsが上位語,horsesが下位語にあたります。「馬」は「現代の哺乳類」の中に含まれているからです。

ex-2) 次の英文を読み,太字のarthropodsはどういう意味かを考えてみましょう。
Deep in the woods, two distinguished arthropods ― renowned in the animal kingdom for their ingenuity and technical accomplishments ― have struck up a conversation. One is ANT, the other is SPIDER.
(2016年度筑波大学前期日程)
Tim Ingold, When ANT meets SPIDER: Social theory for arthropods
〈語彙〉□ distinguished 卓越した,優れた  □ renowned 有名な  □ ingenuity 器用さ  □ technical 技術的な  □ accomplishment 功績  □strike up O Oを始める
〈和訳〉森の奥深くに,動物の世界ではその器用さと技術的な功績で有名な,2つの優れた節足動物が会話を始めた。一方はアリで,もう一方はクモだった。

⇒2文目の One is ANT, the other is SPIDERという表現に注目しましょう。これがtwo distinguished arthropodsの具体例だとすれば,arthropodsはant(アリ)とspider(クモ)を含む上位語であると考えられます。「昆虫(insect)」を想像した人もいるかもしれませんが,クモは正確に言えば昆虫ではありません(*2) 。だとすれば,さらに広く考える必要があります。アリを含む昆虫もクモもともに「節足動物」の仲間です。ということは,このarthropodは「節足動物」の意味ではないか,と考えることができます(※なお,この英文が入試に出題された時,この単語には注が付けられていました。)

▼ちなみにarthropodは,名詞または形容詞で,Arthropodaの派生語です。そして『オックスフォード新英英辞典』ではArthropodaを“a large phylum of invertebrate animals that includes insects, spiders, crustaceans, and their relatives”(昆虫,クモ,甲殻類動物とその同族の動物を含む,無脊椎動物の大きな門)と定義しています。

【3】部分語・関連語を用いる

▼「部分語」とは文字通り,何かの「一部分」になっている表現,という意味です。文法用語としてはsome(一部) / most(大半)などの語を表しますが,ここではより広く,「ある表現の中に含意されているもの」を表します。たとえば「鼻」「目」「口」は「顔」の一部であって,「顔」の具体例ではありません。

▼また,「病院」と関連のあることばは何かと問われたら,「医者」「看護師」「患者」「怪我」「病気」…といった表現を連想することができると思います。このようにある一つの表現と密接なかかわりがある別の表現を「関連語」と呼びます(〈「つながり」を読み解く英文読解(1) ~"The baby cried. The mommy picked it up."~〉で扱ったthe babyとthe mommyの関係もそうですね)。

▼こうした「部分語」や「関連語」によっても,文と文の間に「つながり」を生み出すことができます。それでは,部分語や関連語に注意して以下の英文を読んでみましょう。

ex-1) More than a million children attend public schools in New York City. About 780,000 of them are poor enough to qualify for a free or reduced-price lunch. Getting into the program requires some paperwork, which is a burden but not a terrible one; the application is just one page. So why do so many eligible children ― about 250,000 ― not participate?
(2015年度中央大学総合政策学部)
http://www.nytimes.com/2014/04/10/opinion/free-for-all-in-the-cafeteria.html
〈語彙〉□ attend O Oに通う  □ qualify for A Aを手に入れる資格がある  □ paperwork 書類に記入する作業  □ burden 重荷  □ application 申込用紙  □ eligible ふさわしい,適格の,資格がある
〈和訳〉100万人以上の子どもたちがニューヨーク市の公立学校に通っている。彼らのおよそ78万人はとても貧しくて,無料または割引の昼食を食べる資格が与えられているほどである。そのプログラムに加わるには,ある書類に記入する必要があるが,それは重荷となっている。だが,ひどい重荷ではない。その申込用紙はたった1ページだけなのだ。それでは,なぜそれほど多くの,およそ25万人の資格のある子どもたちが参加していないのか。

⇒3文目にあるthe programは,2文目の中にある「無料または割引の昼食を食べる資格を与える」ことを指して「そのプログラム」と表現しています。そして,同じく3文目にあるthe applicationも,some paperwork(ある書類への記入)のことを指して,「その申込用紙」と言うために用いられています。「プログラム」に関連したものとして「申込用紙」「書類への記入」という表現が用いられていることが分かります。

ex-2) Perhaps the most famous dream in antiquity took place in the year A.D. 312, when the Roman emperor Constantine engaged in one of the greatest battles of his life. Faced with a rival army twice the size of his own, he realized that he probably would die in battle the next day. But in a dream he had that night, an angel appeared before him bearing the image of a cross, uttering the fateful words "By this symbol, you shall conquer." Immediately he ordered the shields of his troops decorated with the symbol of the cross.
(2016年度千葉大学前期日程)
Michio Kaku, The Future of the Mind: The Scientific Quest to Understand, Enhance, and Empower the Mind
〈語彙〉□ antiquity 古典  □ emperor 皇帝  □ engage in A Aにかかわる,Aを行う,Aに従事する  □ bear O Oを持つ  □ cross 十字架  □ utter O Oを発する  □ fateful 決定的な  □ conquer 勝つ,征服する  □ immediately すぐに  □ shield 盾  □ troop 軍隊  □ decorate A with B AをBで装飾する
〈和訳〉おそらく,古典の中で最も有名な夢は,紀元312年に生じたものだ。その時,ローマ皇帝のコンスタンティヌスは生涯最大の戦の一つにかかわっていた。自分の軍隊の二倍の大きさの敵の軍隊に直面し,彼はその翌日の戦闘で自分はおそらく死んでしまうであろうと悟った。しかし,彼がその晩に見た夢の中で,天使が十字架のイメージを持って彼の前に姿を現し,決定的なことばを発した。「このシンボルで,汝を勝たせてあげよう。」すぐさま彼は自分の軍の盾をその十字架のシンボルで飾るように命じた。

⇒2文目にあるrival army(敵の軍隊),3文目にあるconquer(征服する),4文目にあるshields(盾),troops(軍隊)はいずれも,1文目のbattles(戦争)と関連した単語です。これらの関連語が,1文目から4文目のつながりを保つ方法の一つになっています。

【まとめ】

▼〈「つながり」を読み解く英文読解〉の(2)~(6)まで学んだことは次の通りです。
[00.00] 【大原則】英語は同じ表現の繰り返しを嫌う (2)
[01.00] 同一表現の繰り返しを避けながらつながりを作る (3)
 [01.10] 代名詞・指示語を使って言い換える (3)
 [01.20] 〈定冠詞(the)+名詞〉を使って言い換える (4)
 [01.30] 代動詞を使って言い換える (4)
 [01.40] 代用表現を使った節の言い換え (5)
 [01.50] 省略する (5)
 [01.60] 類義語・反意語を使って言い換える (6)
 [01.70] 上位語/下位語を用いる(抽象化⇔具体化)(6)
 [01.80] 部分語・関連語を用いる (6)

▼同一表現の繰り返しを避けながら、文と文のつながりを作る方法として、上の[01.10]~[01.80]について学びました。今後は、それぞれの項目について注意しながら英文を読む習慣を身につけましょう。

▼次回は練習問題です。これまで学んだことを復習して臨んでください。

【注】

*1:このような「語彙によるつながり」のことをlexical cohesionと呼びます。

*2:ただし,『ジーニアス英和大辞典』ではinsectの項目に「《略式》《広義》虫《クモ・ムカデなどを含む;短命の象徴》という記載もあります。生物学的な分類上はクモは昆虫に含まれませんが,ことばの上では慣用的にinsectにクモを含む場合もある,ということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?