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「つながり」を読み解く英文読解(2)~ケッ,お高くとまりやがって!~

【1】英文に潜む「暗黙のルール」

It is the second-rate writers, those intent rather on expressing themselves prettily than on conveying their meaning clearly, and still more those whose notions of style are based on a few misleading rules of thumb, that are chiefly open to the allure meats of elegant variation.
(エレガント・ヴァリエーションというエサに概して動かされやすいのは、自分たちの言いたいことを明快に伝えることよりも自分を行儀よく表現することに夢中で、さらに、その文体についての概念が、わずかな誤った経験に基づいている、二流の物書きなのだ。)
(Henry Watson Fowler, A Dictionary of Modern English Usage, p.130)

▼英語には「同じ内容であっても,全く同一の表現を繰り返すことを避ける」という暗黙のルールがあります。これは特に知識人の間で好んで用いられるルールであり,大学入試に出題される英文ではそうした知識人が書いた文章が出題されることが多いため,このルールを理解した上で英文を読む練習をする必要があります。

▼試しに,次の英文を読んでみましょう。

ex-1) Dolphins and porpoises, both marine mammals, have fascinated people for thousands of years. Amazing stories have been told about how these sea mammals have encountered human beings.
(2010年度三重大学前期日程)
Zukowski/Faust, J., Johnston, S. S., & Atkinson, C. S. (1983). Between the lines: Reading skills for intermediate-advanced students of English as a second language, New York: Holt, Rinehart and Winston
〈語彙〉□ dolphin イルカ  □ porpoise ネズミイルカ
□ marine 海洋の,海の  □ mammal 哺乳類
□ fascinate O Oを魅了する  □ amazing 驚くべき
□ encounter O Oに出会う
〈和訳〉イルカとネズミイルカは,ともに海洋哺乳類だが,何千年もの間,人々を魅了してきた。これらの海の哺乳類が人間とどのように出会ってきたのかについて,驚くべき話が語られてきた。

この英文では,冒頭のDolphins and porpoisesmarine mammalsthese sea mammalsに言い換えられていることが分かります。また,marineseaに言い換えているという点にも注意してください。

▼次の英文はどうでしょうか。

ex-2) Men and Women really do see things differently. According to a new study, females are better at telling the difference between similar colors, while males are more successful at following fast-moving objects and recognizing details from a distance. These are evolutionary developments linked to our hunter-gatherer past.
(2015年度静岡大学前期日程)
James Owen, Men and Women Really Do See Things Differently 一部改変)

〈語彙〉
□ differently 異なるやり方で  □ according to A Aによると
□ female 女性  □ good at A Aが得意である  □ male 男性
□ successful at A Aが得意である  □ object 物体
□ recognize O Oを認識する  □ detail 細部,詳細
□ from a distance 離れたところから  □ evolutionary 進化に関わる
□ development 発達,発展  □ link A to B AをBと結びつける
□ hunter-gatherer 狩猟・採集民
〈和訳〉男性と女性は,本当に,異なるやり方でものを見る。ある新しい研究によると,女性の方が(男性より)似たような色の違いを見分けるのが得意で,一方,男性の方が,速く動く物体を追いかけたり離れたところから細かいところに気づいたりするのが得意である。これらは我々の狩猟・採集民としての過去と結びついた,進化に関わる発達なのだ。

⇒この英文では,men(男性)がmalesに,women(女性)がfemalesに言い換えられ,また,better(より得意である)がmore successfulに言い換えられています。

▼さらに,次の英文も読んでみましょう。

ex-3) Every parent knows that toddlers are strange creatures. They are changeable and contradictory, particularly when trying to interact with other people.
(2015年度立命館大学[2月3日実施])
http://www.scientificamerican.com/article/the-benefits-of-talking-about-thoughts-with-tots/
〈語彙〉□ toddlers (よちよち歩きの)幼児  □ creature 生物
□ changeable (気分が)変化しやすい
□ contradictory 矛盾している  □ interact with A Aとやりとりする
〈和訳〉全ての親は,幼児が奇妙な生き物だと知っている。彼らは移り気で矛盾している。特に他の人々とやり取りしようとしている時には。

⇒この英文では,1文目のtoddlersが2文目で指示代名詞のTheyに言い換えられています。また,particularly whenの後にはそのtheyとbe動詞のareが省略されています

▼このように,英語では同じ内容を別の単語で言い換えたり,代名詞を使ったり,時に省略したりすることによって,同一表現の反復を避けようとする傾向があるのです。

【2】「シソーラス」って何?

▼ところで「シソーラス(thesaurus)」という辞書を使ったことがあるでしょうか。日本語でいえば「類語(類義語)辞典」にあたります。私たちが日本語の勉強をするとき,「国語辞典」や「漢和辞典」を使うことはよくありますが,「類語(類義語)辞典」はあまり使ったことがないのではないでしょうか。

▼英語の場合,さまざまな「シソーラス」が出版されています。その中でも有名なものが『ロジェ・シソーラス(Roget’s Thesaurus)』です。これは,イギリス人の医師,ピーター・マーク・ロジェ(Peter Mark Roget: 1779-1869)が1852年に出版した “the Thesaurus of English Words and Phrases” を原型とする辞書で,今日でも多くの人々に使われています。

▼ロジェ自身,一つの内容を様々な表現で言い換えるために単語や熟語を辞書で調べながら論文を書きました。そうして蓄積された情報がもしかしたら他の人にも役に立つのではないかと考えて,ロジェは辞書の作成に踏み切ったのです(ロジェは8歳の頃にはすでに「リスト作り」に夢中になっていたということですから,こうした仕事をするのは苦にならなかったのでしょうね)。

▼ちなみに,ロジェが作成した Roget's Thesaurus of English Words and Phrases は https://www.gutenberg.org/ebooks/10681 からダウンロードできます。

【3】ケッ,お高くとまりやがって!

▼ただし,こうした傾向に批判的な人もいます。それが冒頭に引用したヘンリー=ワトソン・ファウラーという辞書編集者による一節です。こうした言い換えを「エレガント・ヴァリエーション」と呼び,それを使うのは「二流の物書きだ」と辛辣に批判しています。「賢く見せるためだけにわざわざ言い換える」のは単に見栄を張っているだけですから,この場合の「エレガント」とは「優雅な」というほめ言葉というよりもむしろ,「お高くとまった」という皮肉を込めた表現なのです。

▼私自身はそこまでこの傾向に対して否定的な思いは持っていません。むしろ,こうした傾向のおかげで豊富な語彙を身に着けることができるようになりますし,まるで謎解きを楽しむように英文を読むこともできるからです。ですから,私はここで皮肉を込めた否定的な「エレガント・ヴァリエーション」という呼び方をするつもりはありません。ただ単純に「ヴァリエーション(variation)」と呼ぶか,あるいは「主題の反復変奏 (Repetitive Variation of a Theme: RVT)」と呼びたいと思います。

▼RVT(かたちをかえた反復)を追いかけることが英文の内容理解には欠かせません。しかし,単に「かたちをかえた反復」で繰り返しを避けるだけではなく,同時に文と文との〈つながり〉をも生み出さねばなりません。そのためには様々な方法が用いられます。次回からは,その方法について学びましょう。

【まとめ】

[00.00] 【大原則】英語は同じ表現の繰り返しを嫌う
①英語においては、特に知識人の書いた英文では、同一の内容でも同じ表現を繰り返し使うことを避ける傾向がある。
②同じ表現を使わずに、別の語句や代名詞などで言い換えたり、省略したりすることで繰り返しを避ける。
③これは一つの主題がかたちを変えて繰り返されている「反復変奏」(RVT: Repetitive Variation of a Theme)だとも言える。


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