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つながりを読み解く英文読解(15)~情報構造①~(3/14一部更新)

▼今回からは,「情報構造」についてお話していきます。

Halliday produced characterisations of given / new, in terms of speaker-expectations, which are capable of being rather narrowly interpreted, as we suspect he intended. 'Given' information is specified as being treated by the speaker as 'recoverable either anaphorically or situationally' and 'new' information is said to be focal 'not in the sense that it cannot have been previously mentioned, although it is often the case that it has not been, but in the sense that the speaker presents it as not being recoverable from the preceding discourse'.
(ハリデーは、話す人の期待という観点から旧/新の特徴づけを行った。彼が意図していたと私たちが考えていることだが、その意図はかなり厳密に解釈されることができる。「旧」情報とは、話す人によって「前方照応的にあるいは状況的に取り戻せる」ものだと扱われているものとして記されている。そして「新」情報とは「実際、以前に言及されなかったということもよくあるが、それが以前に言及され得なかったという意味ではなく、話し手がそれを先行する談話から取り戻すことができないものとして提示しているという意味において」焦点となるものだと言われている。)
(Gillian Brown & George Yule, Discourse Analysis, Cambridge University Press, 1983, p.179)

【1】二種類の情報

▼私たちの周りには,たくさんの情報があふれかえっています。英語であれ日本語であれ,文章も情報の一つです。こうした情報は,大きく二つの種類に分類することができます。それは「既に知っている情報」「まだ知らない情報・その場で初めて与えられる情報」です。

▼「既に知っている情報」のことを,「旧情報」(given information / old information / familiar information)といいます。これに対して「まだ知らない情報・その場で初めて与えられる情報」は,文章を読んでそこで新たに知ることになるので,「新情報」(new information / unfamiliar information)と呼ばれます。

▼文章を読むということは,読者の手元にある旧情報をもとに,次々と与えられる新情報を整理しながら筆者の言いたいことを理解・整理していく,いわば「旅」あるいはRPGのようなものかもしれません。

【2】旧情報の分類

▼旧情報は,さらに2つにわけることができます。一つは「既に読んだ箇所で登場したもの(前方照応的)」,もう一つは「本文で言及されていなくても,常識的に知っている情報(状況的)」です。冒頭で引用した文章の中に'recoverable either anaphorically or situationally'(「前方照応的にあるいは状況的に取り戻せる」)と述べられているのはその二つのことです。

▼新情報は,与えられた瞬間に旧情報になります。そして,以前〈「つながり」を読み解く英文読解(2)~ケッ,お高くとまりやがって!~〉でお話ししたように英語では「同じ表現の単純な繰り返しを嫌う」という暗黙のルールがあります。そのため,初めて登場した新情報が次に旧情報として登場する際,どのように言い換えられているのかを読み取る必要があります。その言い換え(主題の反復変奏:Repetitive Variation of a Theme=RVT)の方法については「つながりを読み解く英文読解」(3)~(6)までで説明したとおりです。まだお読みでない方は,以下のマガジンを参照してください。

▼「既に文中に登場した情報(前方照応的)」を,discourse-old(既出) と表すこともあります。これについては以下のような説明もあります。少し長くなりますが引用してみましょう。

Discourse-old status applies not only to elements that have themselves been explicitly evoked in the prior discourse, but also to those that stand in some salient and relevant relationship to elements that have been evoked:
[2]
 i I don’t in general care for puzzles, but crossword puzzles are fun.
 ii I tried to get into the library after hours, but the door was locked.
 iii That book is awful; the author doesn’t have any writing ability at all.
    In [i] crossword puzzles is discourse-old information because there has been prior mention of the more general class of puzzles: crossword puzzles are a kind of puzzle.  In [ii] we have a part–whole relationship between the door and the library, so we can infer that the door refers to the door of the library; it has the status of discourse-old information as the latter has been mentioned.  Similarly, books characteristically have authors, and hence we understand the author to refer to the author of the book just mentioned.  It is of course possible for a book not to have an author (it could be an edited collection of papers), but that is irrelevant: there is a close relationship between books and authors, and this is sufficient to make the author discourse-old information in the context of the preceding NP that book.
Huddleston, Rodney; Pullum, Geoffrey K.. The Cambridge Grammar of the English Language (ページ1368-1369). Cambridge University Press. Kindle 版.
(既出の地位は,先行する談話のなかで明示的にあらわされた要素だけでなく,あらわされた要素と,何らかの大切で弁別的な関係にある要素にもあてはまる。
 i 私はパズル全般は好きではない。しかしクロスワードパズルは面白い。
 ii 私は数時間後に図書館に入ろうとしたが,に鍵がかかっていた。
 iii あの本はひどい。筆者には書く能力が全くない。
    [i]では,クロスワードパズルは既出の情報である。というのも,より一般的な部類のパズルに先に言及していたからだ。[ii]では,扉と図書館の間に,部分ー全体の関係がある。だから私たちは,その扉が図書館の扉を指していると推論できる。後者(=図書館)が言及されたので,扉は既出情報の地位を持っている。同様に,本には筆者がいるのが特徴である。だから私たちは,その筆者が言及された本の筆者を指していると理解する。もちろん,本に筆者がいないこともありうる(編集された論文集がそうかもしれない)が,それは関係ない。本と筆者の間には親密な関係があり,これだけで,先行する「その本」という名詞句の文脈で,筆者が既出情報になるのに十分なのだ。)

▼ここで述べられていることは,上に挙げた〈「つながりを読み解く英文読解」(3)~(6)〉でより詳細に述べていますから,ぜひそちらも参照してください。また,この本の中では新・旧情報について,以下のような説明もなされています。

Familiar or old information is information that the speaker takes to be shared by speaker and addressee, contrasting with unfamiliar or new information. 
(旧情報とは,話し手が,話し手と聞き手によって共有されていると受け取っている情報のことであり,新情報と対比されるものである。)
Huddleston, Rodney; Pullum, Geoffrey K.. The Cambridge Grammar of the English Language (ページ1368). Cambridge University Press. Kindle 版.

▼上の引用では speaker (話し手)となっていますが,これは書き言葉でも同様で,筆者/話し手が,読者/聞き手との間に共有できているだろうと考えている情報が旧情報になるわけです。

【3】筆者の想定する旧情報が読者とズレていたら?

▼ということは,仮に,筆者/話し手が旧情報だと想定した情報が,読者/聞き手にとって未知のものやなじみのないものであれば,話し手や聞き手は困惑します。たとえば次の文章を考えてみましょう。

Attention restoration theory looks at the two main types of attention that humans employ: directed and undirected attention.
(注意回復理論が目を向けるのは,人間が用いる二つの主要な種類の注意である。すなわち,特定の方向に向けられた注意と,特定の方向に向けられていない注意である。)
(2020年度大阪大学前期日程第1問(B)より)
Andrés R Edwards, Renewal: How Nature Awakens Our Creativity, Compassion, and Joy, New Society Publishers, 2019

▼これは2020年度大阪大学前期日程第1問(B)で下線部和訳問題として出題された英文の冒頭です(なお,下線部はここには引かれておらず,この次に続くセンテンスが問われました)。受験生は「いきなり Attention restoration theory なんて言われても何のことやらさっぱりわかんねーよ!」と思ったはずです(ちなみにこの directed  / undirected の訳もくせもので,この後に続く下線部の内容から判断して訳語を考えねばならないという,受験生泣かせの問題でもありました)。もちろん,Attention restoration theory についての知識がなくても解答できる問題ではありますし,そもそも出題者はAttention restoration theory についての知識を受験生に求めているわけではありませんが,いきなりこんな情報を与えられた受験生はさぞ困惑したことでしょう。要は,筆者(というよりここでは出題者)と読者(=受験生)との間で求められている旧情報のレベルに大きな差がある,ということなのかもしれません。

【4】重点情報

▼さて,これまで,「旧情報」と「新情報」という区分をしてきましたが,実はもう一つ,重要な概念があります。それが「重点情報(焦点:focus)」です。通例,英文では「新情報」に重点が置かれることが多いのですが「旧情報」に焦点が置かれることもあります(その場合,受動態や,分裂文による強調[いわゆる「強調構文」],倒置など,特別なかたちを使って旧情報に重点が置かれていることを示すことがよくあります。そうした特別なかたちのことをまとめて「情報運搬構文(Information packaging construction)」と呼ぶことがあります)。

(1)焦点とは、発話において最も強く発音される要素である。
(2)焦点とは、発話内で最も重要な情報を担う要素である。
田子内健介・足立公也『右方移動と焦点化』(研究社),2005年,p.1

▼また,音声として考えるとより理解しやすいのですが,重点を置きたい新情報をいきなり冒頭に置くと,相手は聞き逃す可能性があります。そのため,旧情報がセンテンスの前半に,重点情報はセンテンスの後半に来る傾向があります(もちろんこれは「傾向」にすぎません。すべてがそうだ,と言っているのではないので気を付けてください)。この傾向のことを「文末焦点(end-focus)」と呼びます。

・... order given, old, or topical information before new or focused information
(旧情報,あるいは話題となる情報を新情報あるいは焦点情報の前に置く)
・this is only a tendency: New information can, under certain circumstances, precede old information
(これは傾向に過ぎない。新情報は,特定の状況下においては旧情報の前に置かれる)
Nomi Erteshik-Shir, Information Structure: The Syntax-Discourse Interface, Oxford University Press, 2007, p.7

▼たとえば,上に挙げた大阪大学の例文をもう一度見てみましょう。

Attention restoration theory looks at the two main types of attention that humans employ: directed and undirected attention.
(注意回復理論が目を向けるのは,人間が用いる二つの主要な種類の注意である。すなわち,特定の方向に向けられた注意と,特定の方向に向けられていない注意である。)
(2020年度大阪大学前期日程第1問(B)より)
Andrés R Edwards, Renewal: How Nature Awakens Our Creativity, Compassion, and Joy, New Society Publishers, 2019

▼この英文では,Attention restoration theory(注意回復理論)という旧情報(人によってはこれは未知の情報かもしれませんが,筆者からすれば「旧情報」になります)から出発し,「二つの主要な種類の注意(the two main types of attention)」という新情報が与えられ,さらにそれが directed and undirected attention と具体的に言い換えられています。そしてこれがこの文の「重点情報(焦点)」だと考えられます。

▼だとしたら,この次に来る内容は何でしょうか?当然,今登場した新情報である directed and undirected attention について詳しく説明されるはずです。そうでなければこの表現をわざわざここで登場させた意味がないからです。実際,この次に続く文は "Directed attention requires us to focus on a specific task and block any distractions that may interfere with it."(特定の方向に向けられた注意によって,私たちは,特定の作業に集中することと,その作業を妨げる可能性があるいかなる気を散らすものも遮断することが求められる)となっていました(太字引用者)。

▼directed and undirected attention という1文目の重点情報が,2文目では旧情報となり,Directed attention という主語として登場し(ここではこの表現を言い換えずにそのまま用いていますね),その情報についての説明が requires us to focus ... と続いています。こうしたつながりをしっかりとらえるためにも,「どの情報がどこで登場し,それがその後,どのように言い換えられたり引き継がれたりしているのか」を意識して英文を読む習慣をつけましょう。

【5】まとめ

▼これまで話したことをまとめると次のようになります。

旧情報
・筆者/話し手が,読者/聞き手と共有していると思っている情報
 (a) 既に文中に登場した情報(さかのぼればわかる)[前方照応的]
 (b) 常識的に何のことかわかる情報[状況的]
新情報
・文中で初めて登場する情報。通例,そこに重点が置かれる。
重点情報(焦点)
・通例〈新情報=重点情報〉となることが多いが,旧情報に重点が置かれることもある。その際,「情報運搬構文(information packaging construction)」という特殊なかたちを使うことがある。
・重点情報はセンテンスの後半に来ることが多い。これを「文末焦点」と呼ぶ。ただしこれはあくまでも傾向に過ぎないので,すべてがそうだというわけではない。

▼「つながりを読み解く英文読解」は今後,引き続き,情報構造とそれに関連した内容について書いていきます。いましばらくお待ちください。



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