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ベンゾジアゼピン減薬リーフレット - ゾルピデム(マイスリー)

前書き

ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下ベンゾジアゼピン)は不安や睡眠障害の治療に広く用いられている薬剤群です。長期使用により依存が生じる可能性がありますが、ベンゾジアゼピンを処方する医師の、依存や離脱症状への理解が十分ではない場合があります。
僕はこれまでベンゾジアゼピンの依存や離脱に関する一般的な情報を提供するnoteをいくつか執筆してきましたが、個別の薬剤に関して述べたことはあまりありませんでした。このリーフレットは個々の薬剤の減薬法の具体例を示すことを目的として作成しました。

今回は、ゾルピデム(マイスリー)に焦点を当てて、減薬プロセスに関する情報を提供します。ゾルピデムの特性や減薬の方法、離脱症状に対処するアプローチなどについて説明し、減薬に関する一般的な知識の共有を目的としています。


本リーフレットにおけるベンゾジアゼピン減断薬の前提条件

  1. ベンゾジアゼピンの慢性投与でそのベンゾジアゼピンの依存が生じていると医師に診断を受けている。

  2. ベンゾジアゼピン服用の理由となった原疾患はベンゾジアゼピン以外の治療により寛解している、あるいは完治している。

  3. 過去にベンゾジアゼピンの減薬を試みたことは無い。

  4. ベンゾジアゼピンを服用する理由となった狭義の精神疾患以外の、離脱の妨げになるような合併症は無い。

  5. 医師の協力のもとに減断薬を進めることができる。

薬を処方するのは医師なので、主治医の同意と協力が必要です。多くの医師がベンゾジアゼピン離脱をどのように行うのがよいか不確かなため、引き受けたがりません。しかし、時に応じて主治医のアドバイスを尊重しても良いですが、離脱のプログラムに関しては自分で責任を持ち、自分自身に合ったペースを見つけて離脱を進めて行くつもりであることを主治医に伝えて安心させて下さい。

アシュトン・マニュアル 第Ⅱ章(前半)「医師・薬剤師とよく相談する


対象薬物

ゾルピデム(zolpidem, マイスリー)

効能効果
不眠症(統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く)

効能効果に関連する使用上の注意
本剤の投与は、不眠症の原疾患を確定してから行うこと。なお、統合失調症あるいは躁うつ病に伴う不眠症には本剤の有効性は期待できない。

https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060392


用法用量

通常、成人にはゾルピデム酒石酸塩として1回5〜10mgを就寝直前に経口投与する。なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。年齢、症状、疾患により適宜増減するが、1日10mgを超えないこととする。

用法用量に関連する使用上の注意
本剤に対する反応には個人差があり、また、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)は用量依存的にあらわれるので、本剤を投与する場合には少量(1回5mg)から投与を開始すること。やむを得ず増量する場合は観察を十分に行いながら慎重に投与すること。ただし、10mgを超えないこととし、症状の改善に伴って減量に努めること。
本剤を投与する場合、就寝の直前に服用させること。また、服用して就寝した後、患者が起床して活動を開始するまでに十分な睡眠時間がとれなかった場合、又は睡眠途中において一時的に起床して仕事等を行った場合などにおいて健忘があらわれたとの報告があるので、薬効が消失する前に活動を開始する可能性があるときは服用させないこと。

https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060392

力価・半減期・剤形
力価:ゾルピデム 10mg=ジアゼパム 5mg(「抗不安薬・睡眠薬の等価換算−稲垣&稲田(2017)版」より)
半減期:2時間(製剤ごとのばらつきあり)
剤形:5mg錠、10mg錠

本リーフレットにおける仮想症例の処方内容
Rp. 1) ゾルピデム 10mg錠 1錠 分1(就寝前)

減断薬法(1. Optimal Scenario)
ゾルピデム1日量10mgを全量粉砕したものを服用してもらい、2週間経過観察する。
Rp. 1) ゾルピデム 10mg錠 1錠(粉砕) 分1(就寝前)

離脱症状が現れないことが確認した後に0.1錠/日/2週間のペースを目安として減量する。ただし、減量分のゾルピデムを必ず別包で処方しておく。つまり減量開始の最初の処方箋は以下のような記載内容になる。
Rp. 1) ゾルピデム 10mg錠 0.9錠(粉砕) 分1(就寝前)
Rp. 2) ゾルピデム 10mg錠 0.1錠(粉砕) 分1(頓用)

2週間の観察期間内に離脱症状が現れなかった場合、あるいは日常生活に支障が生じない程度の離脱症状が現れたが消失した場合、次の段階に進む(ゾルピデムの1日量をさらに0.1錠/日減らす)。
離脱症状が軽度であっても、消失するまでは次の段階に進むべきではない。消失するまで何週間でも、何ヶ月間でも待つこと。
これを繰り返しながら断薬に至ることをめざす。
観察期間中に強い離脱症状が現れた場合は遅滞なく頓用薬を用いて減量前の用量に戻し、離脱症状の消失を待つ。次回受診時に主治医と相談し、その後の減薬戦略を再検討する。減断薬を断念することも選択肢の1つである。

減断薬法(2. Challenging Scenario)
主治医あるいは薬局から粉砕処方に関する理解・協力が得られない場合(それはしばしば起こりうることである)。

ほとんどの薬局で対応してくれる1/4錠単位での漸減を行う。
工夫としては「ゾルピデム 10mg錠 1錠」をまず「ゾルピデム 5mg錠 2錠」に置換する。5mg錠を1/4錠ずつ減らせば全体の1/8(0.125mg)ずつ減量することが可能になる。
0.1錠=1/10錠単位の漸減に比べて「段差」は大きくなるが、それでも全体の8分の1ずつ減らせるのであれば、多くの患者さんにおいては十分に"漸"減である。

具体的には以下のように処方していくことになる。

[第1段階]
Rp. 1) ゾルピデム 5mg錠 1錠+ ゾルピデム 3/4錠 分1(就寝前)
Rp. 2) ゾルピデム 1/4錠(頓用)

2週間の観察期間内に離脱症状が現れなかった場合、あるいは日常生活に支障が生じない程度の離脱症状が現れたが消失した場合、次の段階に進む。

[第2段階]
Rp. 1) ゾルピデム 5mg錠 1錠+ ゾルピデム 1/2錠 分1(就寝前)
Rp. 2) ゾルピデム 1/4錠(頓用)

[第3段階]
Rp. 1) ゾルピデム 5mg錠 1錠+ ゾルピデム 1/4錠 分1(就寝前)
Rp. 2) ゾルピデム 1/4錠(頓用)

0.1錠ずつ減らす場合でも1/4錠ずつ減らす場合でも、その減薬幅ではどうしても強い離脱症状が現れてしまう場合は、より力価が低いジアゼパムへ置換した上での漸減を行う必要があるかもしれない。
そうしたケースでは、日本人におけるジアゼパムの代謝酵素(CYP2C19)の活性のばらつきも考え合わせて「漸置換」を行うこと(アシュトン・マニュアルでも一気置換は推奨されていない)。置換完了後にジアゼパムを0.1mg/日/4週間(※ジアゼパムの半減期の長さを反映して各段階ごとの観察期間は4週間が必要となる)のペースで漸減し断薬を目指す。


医学的免責事項

本リーフレットは一般的な情報の共有を目的とし、個人的な医学的助言を提供するものではありません。
本リーフレットの内容は、ベンゾジアゼピン依存や離脱症状の診断・治療を目的として利用すべきではなく、医療専門家によるケアに代わるものでもありません。
健康上の問題や疑念がある場合は、必ず主治医にご相談ください。
著者は本リーフレットの内容に関する誤りや結果に対して責任を負いません。医療的判断を下す際には必ず主治医と相談することを推奨します。
より個別性の高い事案については相談や診療も行っています。

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