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「キャプテンズバー」の軽食@香港

 文藝春秋の新刊(2022年4月刊)『辮髪のシャーロック・ホームズ』を楽しく読んでいる。香港の作家が書いたもので、本家のホームズものと時代はまったく同じだが、同じなのは時代だけで、舞台はロンドンではなく植民地時代の香港、名探偵とその相棒は清朝末期の中国人だ。二人が暮らすのは荷李活道(ハリウッドロード)221の乙、事件を持ち込んでくる二人の警部(レストレードとグレグスンか)は、英国人が支配する警察で植民地出身ながら昇進した中国系とインド系、などなどにやりとさせられる手の込んだ設定だ。
 いわゆるパスティーシュものだが、子供のころからホームズの大ファンの私は、70年代のニコラス・メイヤーのものや、近年のアンソニー・ホロヴィッツなどいろいろと楽しんできた。今回のものはなんと大好きな香港が舞台ということで、シリーズ刊行されるという今後も楽しみでならない。
 別の項で香港の庶民派ローカルフードを偏愛していることを書いた。たしかに私の香港におけるいちばんの楽しみであることに間違いはなく、香港島と九龍半島の中心観光地のみならず、新界と呼ばれる深圳に近いエリアの、沙田、元朗などの街々まで足を伸ばして人気メニューを食べ歩いた。広東系の人々のたくましいエネルギーを街並からも食事からもいつももらっていた。
 いっぽうに、アヘン戦争から始まる英国の植民地支配の影響を受けた香港がある。ビクトリアハーバー、クイーンズロード、ネイザンロードなどの地名にも英国の色が濃い。広東系のコミュニティがホンネむき出しのものとするならば、英国系の風情は上品で、すこしおすましな気配を漂わせている。マークス&スペンサーやタイムズスクエアをひやかすのも楽しい。
 写真は中環のマンダリンオリエンタル、キャプテンズバーの2015年の軽食メニューからオーダーして食べたものだ。ミニミニサイズのバーガー3個とフレンチフライ、つくづく気がきいているなあと思う。ペニンシュラより歴史は浅いが、英国らしさはこのホテルのほうが強く感じられるように私には思える。キャプテンズバーはいつも白人客でにぎわっている。ビジネスパーソンが数人でハッピーアワーに興じているのを隣席で眺めざわめきを聞きながら、ドライなマティーニを啜る。ビクトリア女王の時代に思いを馳せる幸せな香港の夕べだ。

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