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「白龍」のじゃじゃ麺@盛岡

 これも古い話だが、30代の頃小説の出版部に在籍しており、当時人気があった盛岡在住の作家さんの担当になった。うちあわせ、新刊の本ができたときのお届け、各社の編集者が集まるような会などがあり、けっこうな頻度で盛岡に出かけた。その作家さんは、盛岡にやってきた編集者と食事に出かけて酒席をともにするのをなによりの楽しみとされていて、当方としてはそのおかげで盛岡の多くのお店を知ることができた。
 いまは、ふらりと盛岡に出かけて好きなものを食べてお酒を飲むのを楽しみにしている。街の中心部を北上川が悠然と流れる風情が好きだ。北上川にかかる橋から上流を眺めると、多くの地点で岩手山が目に入る。なだらかな山頂部分から広がりのある裾野へとつながるかたちは雄大であり、かつある種の優しさで盛岡を見守っているようにも感じる。北上川の河原までおりて、透明感のある水が流れる音を聞きながら散策するのは、じつに気分のよいものである。この街はいいバーも多い。お気に入りは盛岡いちの繁華街、菜園の交差点に面したホテルロイヤルの2階のバーだ。お向かいが老舗百貨店の「川徳」で、夕暮れ時の交差点を行き交う人々を眺めながら飲むジントニックの味には格別なものがある。
 さて全国的に人気の盛岡じゃじゃ麺、一番人気の「白龍」だ。盛岡城址に近い本店は、地元の人と観光客で行列になっていることが多く、「川徳」の地下や駅ビル「フェザン」の支店が入りやすい。麺料理好きの身からみても、似た料理が思い浮かばない、かなりユニークな存在のように思える。戦前に満州にいた初代が盛岡に引き揚げてきて、大陸で食べていた麺料理をアレンジしたものだそうだ。にんにくやお酢などを加えつつ、太めの麺をとにかくまぜまぜにして食べる。まぜまぜにするときにやたらと汁や具がはねるのが難点といえば難点だ。また、にんにくはけっこうな量が添えられている。調子に乗って全部使うと、後刻やや後悔することになる。そして麺が残り少なくなったら、テーブルにある卵を割り入れて、店員さんにスープや味噌などをかけてもらうと、ちいたんたんといわれる状態になり、またしてもまぜまぜにして味の変化を楽しむ。
 市内各地に宮沢賢治の足跡もあり、全国的に著名な書店もある。文化の香り高くとても清潔な感じがする街である。



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