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「羅富記粥麺専家」の皮蚤痩肉粥@香港

 香港の食事が好きで何度もくりかえし旅をしてきた。2000年前後に、当時出版業界でさかんに刊行されていた情報誌の編集部にいたころは、香港に関する旅記事や情報コラムなども作ったりした。人々が雑誌に実用情報を求めていたほぼ最後の時代にあたるだろうか。その後、特に旅の情報などの入手手段は、雪崩を打つかのように一気にウェブに移っていくことになる。
 取材のときは、気心の知れたスタッフの人たちと、安くておいしい香港のレストランでテーブルを囲むのも楽しみだった。グースやダックの焼き物、食材を自分で選び好みの調理を伝える海鮮料理、どこも大バコで活気にあふれていて、甲高く早口に聞こえる広東語が飛び交っていた。人々のエネルギーと欲望を肌で感じられるような気がしていた。
 中環は香港島の北側、ビクトリア湾に面した金融の中心地で、ランドマークのIFCモールがそびえている。トラムでもMTRでもその西どなりが上環で、中環のホテル街からも便利だ。上環は香港島の中心街に位置するにもかかわらず、かつての香港の趣を色濃く残している。庶民的な食堂や屋台も多く、小さな市場のような施設も点在していて、ランニング一枚のおじさんが豚をさばいているのに出くわしたりもした。
 このエリアの山側、すこし中環よりのところに「羅富記粥麺専家」がある。朝食にここのお粥を食べるのが好きだ。香港の食べ物でいちばん好きなものをどうしても一つだけ選べ、といわれたらここのお粥を選ぶかもしれない。具の皮蚤(ピータン)、痩肉(豚肉)とお粥の組み合わせが絶妙で、お粥はすこし油も感じられるコクのある味つけだ。台湾のお粥ともシンガポールのお粥とも違うように感じる。
 レストランの食事もいいが、香港の食の真骨頂はこの羅富記のような庶民的な食堂やフードコートなどで供される、粥、麺、皿めしものなどではないかと思っている。個人的には「小めし」と呼んでいて、雲吞麺、牛腩麺、魚丸麺、各種の撈麺(汁なしあえ麺)、ダックやチャーシュー載せごはん、これらを朝から食べ歩いて、夕方からお気に入りのホテルバーでハッピーアワー。大好きな香港旅行だ。
 政治情勢の変化とコロナ禍で2019年を最後にいけていないのが残念でならない。

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