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「元町別館牡丹園」の牛腩飯@神戸

 神戸が洗練されて趣味がよく、都会的な街であるということに反対する声は多くないであろう。旧居留地といわれる歴史的な洋風建築が立ち並ぶ界隈に、大丸百貨店の神戸店がある。古い洋館をいかした見事な店舗だと思うが、神戸の人から聞いた話によれば、地元ではこの百貨店のことを「神戸大丸」と呼んでおり、「大丸神戸店」とはいわないとのことである。なるほどそうかもしれないなと思う。
 その旧居留地がある港に近いエリアから、市街地は山側に向けていく筋かの坂道で構成されている。トアロード、鯉川筋などとネーミングされたそれらの坂道の界隈が、神戸の都会らしさの真骨頂であるように思う。ゆるやかな坂道に沿って、上り下りの散策をしていると、個人経営の洋装店のごとき店々や、洋食店、デリカテッセン、エスニックフード店、コーヒー店などが次々に表れ、目移りしてしまう。
 そして南京町と呼ばれるチャイナタウンがある。近年はインバウンドの活況とコロナ禍による客足の激減という、激しい環境の変化に耐えているように見える中華街だが、1995年の阪神淡路大震災のときに見せたあの強さを思いおこせば、街の魅力を失うことはないであろうと確信している。
 そのチャイナタウンのランドマーク的な中華門を出てすぐのところに、「元町別館牡丹園」がある。神戸のチャイニーズレストランのなかでも歴史のある店であり、長く市民に愛されてきた。メニューをみて感じるのは、明治期以降日本には入ってきて定着した中華料理は、このお店で供されるような広東料理がベースだったんだろうということである。派手に豪華であったり、スパイシーすぎたり、いきすぎたところがない地に足のついた印象を受ける。広東のカルチャーと日本の食材、日本人の味の好みがうまくブレンドされたのであろうと思う。
 注文したのは「牛腩飯」牛バラ肉と野菜かけご飯である。この「牛腩」は、香港の麺、飯のメニューなどではポピュラーなのだが、日本ではなぜかあまり見かけない。有楽町ガード脇の「慶楽」にほぼ同じ発想のメニューがあり、かなりの頻度で食べていたが、その「慶楽」はもうない。溶け出しそうに柔らかいバラ肉の食感、自然な味付けのあんかけ具合、野菜と白いご飯、飽きのこない味である。

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