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180万艇のデータから分かった競艇で利益を出す単純な法則


結論:単勝万舟券に賭ける

2017年から2022年の31万レース(180万艇)のデータを分析して「競艇は単勝の万舟券に急いで賭け続ければ勝てそう」ということが分かりましたので、その詳細を説明します。
まず、下のグラフを見てください。

図1:ボートレースの単勝におけるオッズ水準ごとの回収率。2017年3月~2022年11月に日本国内の24ボートレース場で開催された31万レース、180万艇のデータを基に作成。180万艇のレース結果をオッズの水準ごとに60分割したため、各点は約3万艇の平均値を示す。薄い灰色で示されている回収率75%はモーターボート競走法施行規則第十四条の四で定められている払戻率。

これは、単勝のオッズと回収率の関係を示しています。
180万艇のレース結果をオッズの水準ごとに60分割し、平均オッズに対する回収率をプロットしています。

見ての通り、最もオッズが大きい点(76.5倍以上)では、平均回収率が100%を超えています(153%)。
回収率が100%を超えるというのは、舟券購入金額より払戻金額の方が多い、つまり、舟券を買えば買うほど得をするいうことです。競艇には、艇番、レーサー、ボート、モーター、レース場、天候や風など、勝負を左右する様々な要素があります。それらを全て無視してオッズのみを見て賭けても得をするということです。
よって、単勝オッズ76.5倍以上の超大穴舟券を買い続けるのが競艇の必勝法です。さらに言えば、オッズ100倍以上の万舟券に限定すると、対象は1万6千艇で回収率は196%でした。したがって、単勝の万舟券に賭け続けていれば賭け金は2倍近くに増えると言えそうです。

長めの補足

以下は補足です。

回収率200%超の条件

図1のグラフの各点は全艇の60分の1に相当するので、単純計算で上記のような万舟券のチャンスは10レースに1回しかないことになります。これではなかなか楽しめなさそうです。オッズ以外の要素も考慮に入れれば、楽しむチャンスを増やせるかもしれません。もっと儲かりそうな条件も見つかるかもしれません。
まずは艇番の効果を考えてみます。競艇ではインコースが圧倒的有利ですが、1号艇など艇番が若い舟の方がインコースを取りやすく、勝ちやすいです。そのため艇番によって勝率が大きく異なり、オッズにも影響します。
図1を艇番ごとに分けたグラフが図2です。

図2:ボートレースの単勝における艇番ごとオッズ水準ごとの回収率。2017年3月~2022年11月に日本国内の24ボートレース場で開催された31万レース、180万艇のデータを基に作成。各艇番ごとにオッズの水準で40分割した。各点は約7,500艇の平均値を示す。

艇番が若いほどオッズが小さいうちから回収率が大きくなる傾向があり、1~4号艇では50未満のオッズでも回収率100%を超え、回収率200%を超える条件もあることも分かりました。回収率100%超に絡むチャンスも、2.5レースに1回の割合に大きく増えました。

三連単では?

三連単など他の舟券式別ではどうでしょうか?単勝と同様の分析を行ってみましたが、回収率が100%を超えるようなオッズ領域はどの式別でも見つかりませんでした。いずれもオッズが高いほど回収率も低くなる本命ー大穴バイアス(後述)を示し、オッズの高いところで回収率が大きくなるような傾向はありませんでした。

競艇に明るい方なら、単勝だけか…と思ってがっかりしたかもしれません。競艇の舟券売上高の90%以上は三連単であり、単勝の1レースあたりの売上は数万から多くても数十万と言われています。売り上げが少ないと自分の投票の影響が大きくなるため、たくさん賭けてたくさん儲けるといった戦略は期待できません。逆に、少額しか賭けられないので初心者におすすめの戦略とも言えます。

早い者勝ち

自分の投票の影響が大きいことは、儲けの少なさに加え、早い者勝ちという状況も引き起こします。
例えば、あるレースのある時点の売上が134票で、6番人気の舟券のオッズが100.5だったとしましょう。この場合、この舟には1票しか投票されていません。万舟券狙いのつもりでこの舟券を1口購入すると、オッズは50.62になってしまいます。
確定オッズが76.5以上になることを予測して投票するには、売上の少ない単勝では、事実上早い者勝ちと言っていいでしょう。「他の舟券購入者たちも、単勝の1票の重みを知っている」と仮定すれば、この先着必勝戦法は成立しそうです。
早い者勝ちではありますが、加えて、自分が賭けた後も他の人が賭けてこない状況か、それほど人気のない舟なのか見極める力も必要です。
他にも、最終表示オッズと確定オッズのギャップなどの問題もあるため、実践で回収率を高めるための戦略を確立するには、さらなる工夫が必要です。

オッズ0.0にも賭ける

これまでの話は、「最終オッズが76.5以上になる舟に賭けていれば」という条件付きでした。これを実践するには、上記の通り早い者勝ちになるので、誰にも投票されていない舟(表示上はオッズ0.0)に賭けるケースも多々発生すると予想されます。これまでは、この1票も投票されなかった舟は無視していました。
もし、このようなオッズ0.0の舟に賭けていればどうなっていたでしょうか。上記の180万艇を調べると、誰も賭けなかった舟は約4万5千艇あり、その勝率は1.76%でした。この勝率の舟に自分が1口購入し続けて回収率100%を超えるには、自分を含めた投票数が57票以上であれば大丈夫です。先に述べたように単勝の売上げは少なく、オッズ0.0が出るようなレースではより少ないと想像されますが、オッズ分布を見る限り80票くらいはありそうです。したがって、単にオッズ0.0の舟に賭けるだけでも100%以上の回収率を見込めるかもしれません。
ちなみに、回収率が100%以上だったオッズ76.5以上の舟は約3万艇だったので、このオッズ0.0に賭ける戦略の方が機会が多くて優秀かもしれません。

巷の必勝法の実力は?

ついでに、巷で謳われている必勝法や賭けのコツの効果も簡単に検証してみます。

「競艇 単勝 必勝法」で検索してヒットしたページをいくつか参考にすると、おおむね以下のようなことがコツとして書かれています。

  • 買い目は1点に絞る

  • 購入金額は少額に抑える

  • 1号艇に賭ける

  • オッズ1.0は買わない

  • 大穴は避ける

  • オッズ0.0は狙い目

上の二つは今までの議論より重要なのは明らかです。下から二番目は今回のデータとは逆の主張ですね。一番下は先ほど検証しました。残りとなる1号艇でオッズ1.0以外に賭けた場合ですが、これは26万6千艇で勝率は51.3%、回収率は93%でした。
回収率は100%を超えませんでしたが、払戻率75%を考慮すると、簡単なルールな割に優秀な戦略ではないでしょうか。ただし、万舟券必勝法と同じく、確定オッズを予想するのが難しいという問題はあります。
ちなみに、図2によると1号艇の場合オッズ2.7以上に限定すると回収率100%を超えます。
これまでに出てきた戦略を下の表にまとめてみます。

$$
\def\arraystretch{1.6}
\begin{array}{cccc}
\bf{戦略} & \bf{機会[\%]} & \bf{勝率[\%]} & \bf{回収率[\%]} \\[3pt] \hline
オッズ76.5以上 &    1.60 &      1.18 & 153  \\ \hline
万舟券 &       0.880 &     1.19 & 196  \\ \hline
オッズと艇番の組み合わせ &    6.46 & 13.8  & 138  \\ \hline
1号艇オッズ1.0以外 & 14.5    & 51.3  &        93.1 \\ \hline
1号艇オッズ2.7以上 &    3.05 & 28.4  & 117  \\ \hline
\end{array}
$$

行動経済学的な説明

せっかくなので、行動科学的な説明と今回の必勝法の関係も見ておこうと思います。
図1に戻ると、オッズ20付近まではオッズが大きくなるにつれて回収率も小さくなっています。このようなオッズが大きいほど過大評価される傾向は本命ー大穴バイアス(favorite-longshot bias)と呼ばれ、競馬やその他の賭博で現れることが知られています (Ottaviani & Sørensen, 2008)。
これとは逆に、本命が過大評価されて穴が過小評価される逆バイアスが出現する例も知られています。例えば、アメリカのドッグレースでは、最低人気の犬の期待回収率が100%を超える状況が確認されたことがあります(Sobel & Raines, 2003)。今回も、万舟券に相当する大穴が過小評価され回収率が100%を超える逆バイアスが現れています。

既存の理論で説明できない

では、具体的にどのような行動意思決定モデルで今回の現象をとらえられるでしょうか?

競艇のようなパリミュチュエル方式のギャンブルにおける本命ー大穴バイアスは、賭け手のリスクを好む傾向 (risk-loving behaivor/ Winter & Kukuk, 2006)、微小な確率の過大評価 (累積プロスペクト理論/ Jullien & Salanié, 2000)、単に大穴に賭けた方が楽しいし当たったら自慢できるから (bragging rights/ Thaler & Ziemba, 1988) などで説明されています。

しかし、これらのモデルでは逆バイアスは説明できません。そこで、本命ー大穴バイアスと逆バイアスの両方の統合的なモデルとして、賭け手の戦略の違い (Sobel & Ryan, 2008) やオッズレンジの影響 (Newall & Cortis, 2021) が提案されています。詳細は割愛しますが、どちらのモデルも、単勝のみで逆バイアスが現れたという点においては今回の結果と整合的です。

ところがこれらの統合モデルは、ベッティング条件(賭けの状況)によって本命ー大穴バイアスが現れたり逆バイアスが現れたりすることを説明しています。今回の場合、日本の競艇の単勝という一つのベッティング条件で大穴バイアスと逆バイアスの両方が現れているので、上のどのモデルでも説明できません(多分)。本当はここをメインに書くつもりだったのですが、既に長くなり過ぎたので次回以降に書きたいと思います。
今回の現象にあてはまるモデルをご存知の方は教えてくださると嬉しいです。

おまけ:3年前の変化

図3:ボートレースの単勝におけるオッズ水準ごとの回収率。レース開催年ごとにプロット。

ところで、オッズと回収率の関係ですが、レース開催年ごとに分けると、万舟券に近いところで回収率が高くなる傾向はどの年でも見られました(図3)。しかし、2019年以前と2020年以降でその傾向は大きく異なって見えます。2019年~2020年は本命の選手が意図的に着順を下げるという八百長が発覚し、競艇界に大きな動きがあった時期ではあります(因果関係は全く不明です)。いずれにせよ、近年はこの傾向は弱まっているようです。

参考文献

  • Jullien, B., & Salanié, B. (2000). Estimating preferences under risk: The case of racetrack bettors. Journal of Political Economy, 108(3), 503-530.

  • Ottaviani, M., & Sørensen, P. N. (2008). The favorite-longshot bias: An overview of the main explanations. Handbook of Sports and Lottery markets, 83-101.

  • Newall, P. W., & Cortis, D. (2021). Are sports bettors biased toward longshots, favorites, or both? A literature review. Risks, 9(1), 22.

  • Sobel, R. S., & Travis Raines, S. (2003). An examination of the empirical derivatives of the favourite-longshot bias in racetrack betting. Applied Economics, 35(4), 371-385.

  • Sobel, R. S., & Ryan, M. E. (2008). Unifying the favorite-longshot bias with other market anomalies. Handbook of sports and lottery markets, 137-160.

  • Thaler, R. H., & Ziemba, W. T. (1988). Anomalies: Parimutuel betting markets: Racetracks and lotteries. Journal of Economic perspectives, 2(2), 161-174.

  • Winter, S., & Kukuk, M. (2006). Risk love and the favorite-longshot bias: Evidence from German Harness Horse Racing. Schmalenbach Business Review, 58, 349-364.

  • Woodland, L. M., & Woodland, B. M. (2003). The reverse favourite–longshot bias and market efficiency in major league baseball: an update. Bulletin of Economic Research, 55(2), 113-123.

  • Woodland, L. M., & Woodland, B. M. (2011). The reverse favorite-longshot bias in the National Hockey League: Do bettors still score on longshots?. Journal of Sports Economics, 12(1), 106-117.

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