プロダクトマネージャー(PdM)1年目の経験と学びを振り返ってみる
9/9 YouTubeで生配信された、 Product Management Night Tokyo hosted by freee「BtoB 向けプロダクトマネジメントの方法論と実践」がとても面白かったので、自分自身のPdM実務について書き起こしてみようかと思いました。
株式会社137の斎藤です。学校連絡・情報共有サービスCOCOO(コクー)のプロダクトマネージャーの任に就いて、もうじき10ヶ月になります。
ちょうど子連れでインターンをしていた時期の記録がこちら。
育休中のインターンでスキル&カルチャーフィットを確認し、正式ジョイン。保育園にも年度途中でめでたくフルタイム(標準時間)で入ることができました。やったね!!!
1年間をふりかえりがてら、EdTech(GovTech)スタートアップのPdMのリアルなところを記録してみたいと思います。
この働き方がピンと来る方、COCOOのコアメンバーとして一緒に働きませんか?
前提:本記事の事業環境とフェーズ
この記事で触れる体験談は、以下の事業環境・フェーズによるものです。
・公教育の業界課題に特化したバーティカルSaaS
・社員数ゼロ(創業代表のみ)のスタートアップが立ち上げた新規事業
・創業代表と開発チームが「0→1」の形を作った頃にジョインし、
PdMとしてβ版からサービス版への大規模リニューアル
・経産省主導のEdTech事業に採択され、ユーザー数の急拡大
事業内部での役割としては、プロダクトマネジメントトライアングルでいうところの開発者・ユーザー寄りが守備範囲です。
・プロダクト企画・仕様策定、社内外調整・プロジェクトマネジメント
・技術サポート含むカスタマーサポート
・サポートとマーケ・営業を兼ねた顧客(学校)との関係性構築
着任当初こそ自分=実務担当者でしたがメンバーも徐々に増え、チームで動く体制で動いています。頼もしく、素敵なメンバーがいる小さなチームです。
スタートアップならではのスピード感で事業環境が変わり続ける中、CS・営業・システムの三者間を行き来しながら、足りない要素は自分の手足を動かして補いながら、業務を確実に循環させていく役割。というのが現時点でのCOCOOのPdM像です。
事業の成長と環境変化
2019年7月にジョインしてから、この事業を認めていただける学校・自治体・省庁やスタートアップ支援の方々が増え、多くの貴重な機会とお声がけをいただけるようになりました。
足元の現場の仕事を責任を持って回しながら、まさにジェットコースターのような日々を代表と共に駆け抜ける1年間でした。
2019年9月 東京都女性ベンチャー成長促進事業 APT Womenへ採択されました
2020年1月 文部科学省主催「学校の働き方改革フォーラム」にてCOCOO試験導入校が優良事例に選ばれました
2020年7月 第8回DBJ女性新ビジネスプランコンペティションで大賞&最優秀ソーシャル・デザイン賞をダブル受賞しました
数多くの得難い機会を共にさせていただいた、本当に学び多き時間でした。
[学び1] 「顧客を知る」ことの予想以上の深さ
COCOOは教育現場の課題を解決する、業界課題に特化したバーティカルSaaSです。なので、教育業界のことをめちゃくちゃ勉強しました。
ユーザーとの接点があっても、背景を知らなければその言葉の意味・背景にあるもの・真意を掴むことは難しいです。とにかく公教育という業界の社会を深く知ることにトライしました。
(わたしは大学時代に文化人類学の授業をよく履修していたのですが、ユーザー理解の過程はまさにフィールドワークそのものだなと感じています。)
文科省や各地の教育委員会の調査レポートや発表資料、研究授業、いろんな学校のブログ(行事の様子や保護者へのお知らせなどが公開されてる)、先生研修用の動画が文科省のYouTubeで公開されているのを見てみたり。
学校の先生方の仕事の様子、どんな業務があるのか、文科省・教育委員会・学校現場(校長先生)の関係性や権限、法律で定められていること、教育業界の慣行とホットな話題・議論、先生方の関心ごと、etc
また、Twitterで見つけた先生を片っ端からリストに追加して、ウォッチしています。解決すべき課題は不安の中からこそ見つけられるもので、意識高い系な発信よりも愚痴や割り切れない思いなどさりげないつぶやきこそが貴重な情報源でした。
(現場の人たちが何を感じ、何に板挟みにされ、何がどこにしわ寄せを生んでいるのか、そういう現場の肌感覚は、公式見解にはなかなか現れづらいものです。)
また、出欠席に関する大きめの機能開発を設計していた時期には、教育指導要領も読み込みました。
公務員の世界は、国の法律と各地教育委員会(地域ごと)のガイドラインや決まり、学校ごとの業務ルール、三層が複雑に重なる世界で業務が成り立っています。サービスとして、営業フェーズでの提供価値に深みを持たせるためには、業界構造の理解は想像以上に重要だと感じています。
[学び2] 本当に顧客の課題を解決するための仕様をつくるには
β版の試験導入中は、カスタマーサポート(CS)の先頭でお問合せ対応の実務を担いました。先生方はエンドユーザーではなく業務で使われる立場なので、問い合わせ対応は単純な操作説明だけではありません。
「最近どうですか?」と聞くと、「いまこれが困っているんです」「こんなことはできませんか?」と課題やご要望を伝えてくださります。直接話を聞ける立場にたつことで、ユーザーのペインを肌で感じるからこそ、より良い仕様・設計を必死に考えました。
多様な現場ニーズに最大限適応するために、システムとして間口を広げながら一貫性とシンプルさを保ち続けるためにはどうすれば良いか。最大にして永遠のテーマですが、特にデータ構造や例外対応、「システムとして何を許容して何の制約を加えるか」を考えるにあたり、先生方へのヒアリングなしには成り立ちませんでした。
実際に話を伺いながら、「いわゆるシステム開発の発想ではこうだけど、こうした方が使い勝手がよさそうだな?」とピンと来て仕様化した部分はしっかりハマり、評判の良いユースケースが生まれたこともありました。サービス設計の奥深さを実感した、非常に良い経験です。
一方でユーザーの声を開発に反映できた裏には、「なぜその要望は実現できないのか」をご理解いただくための対話も数多くありました。
私たちが何を大切にサービス開発をしているのか、どういう理由でその要望が実現できないのか・時間がかかるのか、なぜ御校で不便なことが、他の自治体・学校では問題にならないのか(利用環境の違いなど)。
特にサービスをがんがん使ってくれて、明確な要望を上げていただけるようなパワーユーザーの先生には、サービス提供者としての考えや狙いもしっかりお伝えし、対等な立場で対話を行えるよう心がけました。(ただしこれは、サービスできたての時期だからこそやれたことかもしれないとも思います)
[学び3] コンセプトと組織づくり。上位概念の力
前職までにシステムの設計思想として考えてきたデータ構造、アーキテクチャ構成、コード規約といったものの上位概念である、サービスのコンセプトというものについて考え続けています。
ある日弊社代表が「わたしガウディが大好きなの」と呟いて勧めてくれた本があります。ガウディ流プロダクト・マネジメントのエッセンスが詰まった、とても示唆深い一冊でした。
彼らの仕事ぶりや、私がガウディの直弟子の方々から伝え聞いた話などを総合して推測できる、ガウディが生きていた時代の作業の進め方はこうです。まず、ガウディが職人たちの中に入っていき、模型を見せて、「石でこんなものをつくれないか」と提案する。建物の一部と言っても、ガウディが考える形ですから、大変美しいものです。そういうものを目の前に置かれると、造形のプロである職人たちはやる気になります。自分たちの技術でつくってみせなければ気が済まなくなる。そのとき湧いてくる一人一人の意欲と、職人たちの頭に描かれる三次元的な構図こそが最大の図面だと、おそらくガウディは考えていました。
特に胸を打たれるのは、どのようにそれを作るのかということ。現場の職人たちとプロダクト(サグラダ・ファミリア)との間の相互作用とでもいうのか、
ガウディはこの彫刻によって、聖堂とそれをつくる人間たちとのあるべき関係を示そうとしたのではないかと思います。サグラダ・ファミリアは職人たちの力に支えられて建っている。同時に、職人たちは、この聖堂のおかげで仕事を与えられ、能力を発揮することができている。その関係を忘れてはならないということです。
百年前の建築の世界でアジャイル開発をしてたって、まじかー。
ガウディが特徴的だったのは、建物をつくりながら、模型をどんどん修正していったことです。特にサグラダ・ファミリアの場合、ガウディはその模型を聖堂内の寝室に置き、亡くなる直前まで、慈しむように修正を加え続けました。付け加えたり取り去ったり、模型の形を毎日のように少しずつ変えていく。職人たちはそれを見て、ガウディの考えを理解しながら、建設を進めていく。
代表はきっとCOCOOの事業もこういうふうに育てていきたいんだろうなと思います。
少なくともサグラダ・ファミリアでは、現場での発見を大切にし、常により良いものを求めていくという考え方が、長い間受け継がれてきました。それがまた職人たちのやる気を喚起させる。
ガウディが期待していたのは、職人たちが起こす小さな奇跡だったと思います。一人一人の能力は決して特別なものではありませんが、彼ら全員が本気でサグラダ・ファミリアのことを考え、より良いものをつくろうとしたときに湧いてくる力。それを結集させて、ガウディは、この人類の誰も考えたことがない壮大な聖堂をつくろうとしていました。
わたし個人の感想ですが、自分が求められた形の歯車になるんじゃなくて、自分の頭で考えながら創造性を発揮しながら働けるっていうのは、心の底から楽しいなあと思います。
同時に、出来上がった会社組織でサラリーマンをするのと比べて、制約が少ない分、守られる部分(自分がスルーしても誰かにカバーしてもらえること)が少ないのは、それなりにハードな環境であるともいえます。
組織のビジョンやサービスのコンセプトを理解して、(事業全体のことは無理でも自分の守備範囲については)ボードメンバーと対等に議論ができること。思うように仕事を進められるのは「ベンチャーだから」ではなく、自分自身にそういう力が求められるのだなと痛感しながら、学びと精進を重ねる日々です。
でも、エキサイティングな仕事ができて、自分自身が初めての経験をたくさん積んでレベルアップができて、良い仕事をすると確実に顧客に喜ばれ、世の中に価値を生み出すことができる、その肌触りが、最高に面白い仕事です。
部分最適では課題解決にならないGovTechの構造
学校教育の世界でのIT活用が国策として取り組まれている中、さまざまな取り組みがありますが、強く感じることは部分最適のシステム導入では三方よしに繋がらないことです。
ちっちゃいちょっとしたツールなら部分最適で良いんですけどね。公教育の情報共有インフラを作るって、本当に難しいお仕事です。
まだまだ未熟なばかりの自分ではありますが、会社として、個人として、子どもの育成環境づくりに携わるすべての人に、ひとつでも多くの価値を交換できるよう、今後も全力で取り組んでいきたいです。
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というわけで・・・この長文をここまで読んでくれた方、こういう仕事のしかた良いかもな。とそんな感想を持たれた方は、ぜひWantedlyの記事も読んでみてください!
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