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あらためましての会社法(計算)



現在、9月15日の早朝。
この記事を公開するのはおそらく数日後のことになりそうだけれど、現時点では九月の真ん中だ。

そんな時期、机の上には、今年つまり令和5年司法書士試験の午後の部問題冊子が乗っている。
なぜ今頃?


前回の最後に申し上げたように、現在は簿記2級の勉強を再開している。
しかし、最初のうちはなかなかエンジンがかからなかった。

7月は本試験の成績の総括や振り返りなどしているうち案外あっという間に過ぎた。
8月、短い期間ではあったがそれなりに「夏休み」を満喫した。

県外から四国旅行に来てくれた受験仲間にお会いして、試験のことなどいろいろと語り合った。最初の大栄高知校に通学していた頃を除いて、近くに司法書士試験を受けている人はおらず、試験のことを対面で話せることなどこれまでは皆無だった。
なので今回の機会はたいへん有難かったし、「同期」がいる心強さというのはこういう感覚なのだろうかとも想像したりした。

そんな束の間の楽しい夏休み、しかしそろそろ脱しなければと、簿記のテキストを開いて仕訳をやり始めたものの、まるで進まない。

簿記の勉強自体については以前にも書いていた。ちょうど一年前頃だ。

今年も、去年と同じ時期から再開した。
現職の先生方の情報発信などをお見受けしていると、やはり簿記は時間があるのなら勉強しておくに越したことはないと考えたからだ。

去年の開始時とは違い、一年前の記憶を辿るならそこまで苦労は要らないだろうと踏んで、3級のおさらいをしつつ、去年買ったものの途中までで終わっていた2級のテキストをまた読み、練習問題を解いていた…いや、解きかけたのだが…

2級はやはり3級より格段に難しい。去年も書いたが、数年前までは1級の範疇だった連結会計、チラ見しただけでも頭痛が痛くなるラスボスが2級に組み込まれ待ち構えている。

さらに、商業簿記だけ相手にすればいいわけではない。工業簿記がまだ全くの手つかずだ。
去年一応テキストは買って少しやりかけていたが、これまで幾度となく申し上げてきたように私はそもそも算数が苦手、商業簿記でもてんやわんやなのに、この上まだ原価計算だの何だの言われた時点で戦意喪失、ひとまず棚上げにしてあるのは去年と何ら変わらない。

テキストを読んでも頭に入って来ないというか、記憶が定着せず、何度やっても貸方借方さえあやふや状態を脱する気配がない。従ってやる気も続かない。
殊の外、残暑が厳しいからだろうと理由をつけたりもした。

まだまだ夏休み気分を引き摺り、勉強するよりYouTubeでヘンテコ不動産やら廃墟やらをレポートする動画をダラダラ観る時間の方が多かった。

しかしふと、そのYouTube上で、簿記の解説をわかりやすくしてくれてる人が一人や二人はいるだろうと踏んで他力本願を決めたのが結果的に奏功した。
この上なくわかりやすく解説してくれるチャンネルを見つけて以来、格段に理解が進み始め、やる気が戻ってきたのだ。
ああ何て単純なO型人間。


簿記の視点から見る商業登記記述

その、簿記で登場する計算書類の筆頭と言えば、貸借対照表。
3級では損益計算書とともにごくごくあっさりと簡略化された形だが、2級になると項目が増えて俄然、文系人間にとって苦手意識を助長させるつくりになる。

そして貸借対照表といえば、今年の本試験問題の第37問の別紙で、貸借対照表が登場していたことを思い出し、話は再び冒頭の9月15日朝に戻る。

法務省サイト「令和5年度司法書士試験問題」より(第37問別紙10)


結論を言えば、問題中で問われた募集株式の発行時の、自己株式の差損の有無の判断に多少の時間をかけさせるために登場したと思しき貸借対照表であったが、私は現場ではこれを全く検討しなかった。というか、視界に入ってさえなかった。むしろ、あえて見ないようにしていたと言ってもよい。

結果的には、スルーしたのがあくまで受験的には正解だった。既に書いたように、あの午後のタイムリミットの中ではとてもじゃないが差損の判断などできる余裕などなかったからだ。


ついでにもう一つ言うと、あらためて本試験問題を振り返って、株式会社サニーの定款のチェックが不十分だったことに気付く。
会社法309条2項の定めが加重され、第2欄(2)の数字に影響するというトラップだったのだが、現場では小問は飛ばすと決めてかかっていたため、そもそもそこが論点になっていることすら気づいていなかったが、あの状況では、その見落としは致し方あるまい。


脱線してしまったので再び話を戻すと、貸借対照表の純資産の部。
資本金以外の部分、つまり準備金と剰余金、資本と利益の関係が何だかよくわからず、以前から何となくモヤモヤしていたが、司法書士試験の対策としてはいつも後回しにしてきちんと理解しようとして来なかった。

先ほど画像を転用した今年の本試験問題に登場した貸借対照表、抜粋だからそうなっているのだろうけれど、純資産の部の分け方、あらためて見ると何だか中途半端な感じがする。

去年買ってから所々しか読んでなかったこの本。
会計の章に貸借対照表の区分表が載せてあり、会計学上と会社法上とでは違いがあることがわかる。

そして、今年の司法書士試験の第37問に登場した貸借対照表は、この双方の分類をまたいだ項目を表示しているようなので、余計にモヤつかせる体裁になっているのだとわかった。

とはいえ、司法書士試験は簿記の試験とは違うし、出題の意図からこのような形の抜粋になったのかもしれない。
簿記会計に詳しい受験生の方が、今年の問題のこの貸借対照表を見てどんな印象を持ったか、機会があれば訊いてみたい。

この弘文堂の会社法の本の会計の章については、今回の簿記2級の再開と、YouTube解説との出会いがなければ、改めて読むことになかなかつながらなかったように思う(いくらわかりやすいとはいえ会社法についての600ページにも及ぶ本を最初から通しで読むのは苦行である)。


「会社法様」の言うことにゃ…

さて、この貸借対照表の純資産の部を語るに際して、会計学の側から見るとどうなのかと言うと、どうやら「会社法様」に気を遣わなければならない苦笑いが常につきまとっているような感じのようだ。

司法書士試験の勉強の第一歩として、まずは会社法の一般法である民法で、債権者は圧倒的に強い存在だという印象を植え付けられる。もちろん、債務者だってある程度保護されるし債権者の横暴までもが許されるなどということはないにしても、期限内にカネを返せなければ有無を言わさず抵当権は実行され、利息の支払いが延滞すれば一方的に元本に組入れもされる。私的自治の原則からすればそりゃそうだという感じはする。自分が借りておいて、返さない方が悪い。一般的には。

それゆえ、会社法でも債権者の利益が最優先だという感覚を植え付けられるし、そういう理解をした方が覚えやすい部分は多々ある。
会社の計算において、株主様よりも偉い債権者様の引き当てである資本金はアンタッチャブルであり、資本準備金は資本金という聖域を侵さないための身代わり、クッション的な存在なのだというように教わってきた。

…全く関係ない話だが、50代に突入してますます腰痛が酷くなってきた。朝イチだと前屈みになるのも辛く靴下も履けない。加齢で軟骨が摩耗しているためで、基本的に治療法はない(薬をもらっても痛みをごまかすだけの効果しかないので最初の受診後は通院すらしていない)。
資本準備金について考えるとき、私の骨と骨の間にも資本準備金のようにフカフカな緩衝材があれば腰痛は軽減されるのに、とくだらないことを考えたりする。

しかし、そんな重要な役割を担う、と司法書士受験生的には受け止められている準備金であるにも関わらず、先述の書籍『会社法』の記載によれば、貸借対照表の会計学による分類には、本来は準備金などというものはそもそも登場しないらしい。
会計学では、株式発行時に資本金とされなかった部分と、損益取引から発生した成果はそれぞれ資本項目と利益項目とに分けられるが同じ「剰余金」という括りなのだ。

会社計算規則(抜粋)
(純資産の部の区分)
第七十六条
 純資産の部は、次の各号に掲げる貸借対照表等の区分に応じ、当該各号に定める項目に区分しなければならない。
(中略)
 株式会社の貸借対照表の資本剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。
 資本準備金
 その他資本剰余金
 株式会社の貸借対照表の利益剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。
 利益準備金
 その他利益剰余金

会計学の立ち位置からだと、「会社法様」が準備金というものを規律し、さらに会社計算規則でこのように貸借対照表に準備金の項目を設けろとされてるのだから、あたかも、せっかく家族で楽しく切り分けようとしているホールケーキを突如乱入してきた町内会長から俺にもちょっとよこせと言われてイヤイヤ一部を差し出すが如く(どんな町内会やねん)、準備金というものを表示するようにしているのだ、仕方なく。といったニュアンスなのである。

準備金のみならず、資本金についても、債権者様の担保ゆえ会社法からの要求だと減少するための手続きは厳重だし、そもそもめったなことでは減少できないが、会計界からしてみれば、単なる数字上の概念(純資産の部は実体がない)でしかない資本金を減らすのに何でそんな気を遣うのか、みたいなスタンスのようなのだ。

そのあたりは、私が今回ハマってしまったこちらのふくしま先生の解説動画から得た印象によるものである。ご関心のある方は一度視聴してみてはいかがだろう。
かなりの早口なので私にとっては通常の速度だと理解するのはなかなか大変だが、このシリーズを聴き始めて以降、簿記勉への姿勢が以前とは全く変わってきたのは間違いない。


こうした、会計を専門に学んだ方との感覚の違い…司法書士受験生からしてみれば、「あの」資本金と準備金、債権者保護手続の公告だの448条3項のアレだの平成27年午後第31問だので悩まされる、あの資本金と準備金が、会計学の方ではそんな邪険な扱いを受けているなどということはけっこうな衝撃をもって受け止められる。


残り三週間の全力疾走


それにしても、簿記の勉強はYouTube先生のおかげでけっこう楽しいが、司法書士の本試験問題を再検討していると頭が痛いを通り越して吐き気がしてくるのは何故だろう。
問題冊子を眺めていると、あの日がフラッシュバックしてツラい。

ということで、心身の健康のため今年の本試験問題のことはこれにていったんまた忘れて簿記の勉強に戻ることにする。
当然ながら簿記の勉強をしていても役員変更や持分会社の話なんかは出て来ない。平和だ。

しかし2級になると、先ほどの貸借対照表絡みや、親子会社関係についての論点が顔を出し、そこの部分では嫌でも会社法について想起せざるを得ず、今回この記事を書く流れにつながった。
夏の受験の記憶から遠ざかりたいがためでもある簿記の勉強が、法律の勉強をまた思い出させることになるとは皮肉だが…

10月のXデーまであと三週間。
それまでは2級を受験するつもりで、できる限り集中して実力を上げていきたいと思う。そうすることで、司法書士試験の合否などに心を乱される時間が減ることになるのは確かだ。
しかし工業簿記が今期は未だ手つかずの状態で、受験できるレベルにどれだけ近づけるのか。かなり厳しい戦いにはなるだろうけれど。

ちなみに、簿記2級合格のために必要な勉強時間は約300時間とのこと。時間だけで比較すれば司法書士試験の1割だが、当然ながら時間だけで難易度は計れるものではない。


さて、今回のことは、YouTubeでの学習、ひいては「聴く」勉強と「読む」勉強との比較について考えるきっかけにもなったのだが、話が長くなるのでここから先はまた次回。

最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。



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