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2020/03/07 舞台「バロック」 観劇

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公演タイトル:「バロック」
劇団:鵺的(ぬえてき)
劇場:ザ・スズナリ
作:高木登(鵺的)
演出:寺十吾(tsumazuki no ishi)
出演:奥野亮子(鵺的)、川田希、岸田大地、祁答院雄貴(アクトレインクラブ)、小西成弥、笹野鈴々音、佐藤誓(アクトレインクラブ)、白坂英晃(はらぺこペンギン!)、野花紅葉、春名風花、福永マリカ、谷仲恵輔(JACROW)、吉村公祐(劇団B級遊撃隊/Ammo)
公演期間:3/7〜3/15(東京)
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


【レビュー】


演劇ユニット鵺的の舞台は初観劇だったが、評判通り背筋の凍りつくような作風の舞台で、こんなにホラーな演劇を観たのは生まれて初めてかもしれない。舞台照明が役者の顔をほとんど照らさないので終始顔をはっきり見ることが出来なかったが、またそれがこの幽霊屋敷の雰囲気を醸し出していて良かった。
また音響の迫力が物凄くて、ちょっとこれは耳の弱い観客には優しくない作りになっていた。序盤のまだ耳慣れしていなかった頃は、この自分もキーンと暫く言ってたくらい耳には少し良くなかった。
ただ舞台装置・役者・脚本のクオリティは高くて中盤から終盤にかけてグイグイ引き込まれていった。耳が弱い方には勧められないが、ホラー・サスペンス好きには是非ともオススメしたい一作。

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【鑑賞動機】


観劇時の折込チラシでプラド美術館に所蔵されているベラスケスの傑作「ラス・メニーナス」の絵画を用いたビジュアルに目を惹かれて気になっており、SNSでの誹謗中傷に関する訴訟などで有名なはるかぜちゃんこと春名風花さんが、月刊「根本宗子」の「今、出来る、精一杯。」で熱演されていて演技が良かったので今作にも出演するということで観劇することになった。
演劇ユニット鵺的の作品自体も初観劇で、あるnoteの記事に「背筋が凍りつくような芝居を好む」と称されていて期待値はやや高めだった。



【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)


舞台は御厨(みくりや)家が代々暮らしてきた森の中にある屋敷である。そこは呪われた幽霊屋敷で度々奇妙な現象が起こってきた。
物語は、その幽霊屋敷に暮らしていた美貴子(笹野鈴々音)が、大人になって上京した子供たちを呼び戻して、この屋敷を取り壊そうとする所から始まる。

美貴子と夫の喜四郎(佐藤誓:アウトレインクラブ)の子供には実子の龍郎(祁答院雄貴:アクトレインクラブ)と禎巳(岸田大地)とひとみ(野花紅葉)、それと孤児だった所を助けて自分の子供のように育てた光仁(小西成弥)とはるか(春名風花)がいた。
彼らは久しぶりにこの幽霊屋敷に帰ってきた。また、この幽霊屋敷を取り壊すために、建物の管理人の下村慧子(川田希)、大原圭一(谷仲恵輔:JACROW)、津山泰子(奥野亮子:鵺的)と不動産屋の田所勉武(はらぺこペンギン!)を屋敷へ招き入れた。

はるかが一番最後に屋敷にやってきて全員揃ったことで、美貴子はこの幽霊屋敷と家族についての想いを語り始める。

美貴子には姉の紗貴子(福永マリカ)がおり、美貴子がまだ幼い頃に紗貴子は家族とこの屋敷を恨んで放火した。家族は美貴子以外全員この火事で亡くなった。紗貴子は放火した後行方不明となった。
美貴子は放火によって家族を失った悲しみを子供たちを沢山つくって育てることで盾にして振り切ろうと考えていた。そのため多くの子供を産み、孤児まで引き取って育てたのだと。
美貴子は自分のことで子供たちを利用しようとしたことを泣きながら謝罪するも、心優しい光仁は母親として育ててくれたことに感謝すると言いながらも、はるかは美貴子に対して許しがたい感情を抱いていた。他の子供たちは無関心だった。

外は台風が接近している影響で雷雨となっている。
そこへ外から車の音が聞こえ、長男達郎が婚約相手を連れてきたのだと両親に会わせるべく屋敷へ迎え入れる。その女性が紗貴子に非常に似ていて衝撃を受けた美貴子は気絶してしまう。
美貴子を2階に連れて行き、ひとみが看病をする。幽霊屋敷は突然大きな物音を立てて、屋敷にいる人々をそれぞれ別々の位相へ誘って離れ離れにさせる。

管理人たちは、家族の人々が消えてなんのことか分からず停電したようなので懐中電灯をつける。どうやら、田所はこの屋敷に詳しいらしく姿は見えないがやり取りが可能で、今消えた人たちは別の位相に行ってしまったと伝える。
一方、ひとみと禎巳は二人だけになっていた。学生時代は血が繋がっていながら惹かれ合っていた仲、お互い大人になっても兄弟姉妹同士でも好きだったことを告白し、激しくキスをする。
暗転すると、今度は光仁とはるかが二人でいる。ここの二人も学生時代の頃は血の繋がっていない兄妹同士で惹かれ合っていたが、やはり一歩踏み出せないでおり、母のことに関してはお互いの意見が食い違っていた。
暗転して管理人たちに加え光仁が現れる。津山は幽霊屋敷のことを悪く言ったせいで消されてしまう。電話がかかって来る、番号はここ幽霊屋敷から、光仁はこの屋敷に好かれているので電話に出ても大丈夫だと電話に出る。
行方不明だった紗貴子が姿を表す、光仁は紗貴子の子供であることを告げ、呪いを吹き込んで美貴子の子供にさせたのだと説明する。紗貴子は彼が手先となって家族の仲を乱してくれると期待したが、期待外れだったと嘆く。家族のために仲介役に入って尽くし、みんなを守ろうとする。紗貴子はそんな光仁を恨み始めた。

周りには兄弟姉妹たちがいる。龍郎は紗貴子を婚約相手と勘違いしてあの世へ吸い込まれていく。ひとみと禎巳も、あの世へ行けば一生二人で過ごせると向かってしまう。光仁とはるかは、はるかがあの世へ引き込まれそうになるが、光仁はなんとしてでもこの世へ止まろうとし、はるかを引き止める。はるかが光仁に助けを求めたことではるかはあの世へ行かず救われる。

一方管理人たちは、台風の影響で河川が氾濫するもこの屋敷を避けて濁流が流れていっているのを確認する。やはりこの屋敷は呪われていると。
そこへ屋敷に住み着く山城(吉村公祐:劇団B級遊撃隊、Ammo)が現れ、地下に代々の屋敷の住人の髑髏をあさり始める。そして、ついに美貴子の髑髏を持ってきて彼女もこの屋敷の手によって死んだことを示す。
台風一過でゴルフが出来そうなくらい穏やかに晴れた朝になる。大原、下村、田所、そして光仁とはるかが生き延びて助かっている。光仁とはるかはお互いを頼り合うことによってあの世へ行くことを免れたんだと仲を深め合う。

一方、あの世では山城が天井から吊るされており、紗貴子と美貴子、津山、喜四郎が食事をしていた。喜四郎は津山に少し想いがあったが、赤の他人を巻き込んでしまった申し訳なさから津山をこの世に送り返してあげる。
その後屋敷は火事となる、でもあの世の住人は燃えない、そこに光仁とはるかがやってきて終わる。

映画「シャイニング」を彷彿させるような呪われた屋敷の設定に、サスペンス要素が詰まっていて中盤から終盤にかけてみるみる作品に引き込まれていったとても良く出来た作品だった。また兄弟姉妹同士の恋愛や家族に対する想いなども描かれていて面白かった。結構兄弟姉妹たちに感情移入しやすかったのもこの作品を楽しめた理由だった気がする。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)


とにかく今作は、舞台セット、照明、音響、小道具のクエリティが手作り感がある上でのクオリティの高さだったので、小劇場らしさというものが劇場「ザ・スズナリ」の建物の古びた感じも相まって非常にバランスが良かった。

まずは舞台セットだが、舞台が幽霊屋敷なので古めかしい洋館の造りとなっている。舞台中央には絨毯が敷かれ中央奥に玄関の扉へと続く観音開きの大扉が設置されている。その両サイドには二階へと続く階段が設置され、上部には2階廊下があり、その上部中央にあの世行きの扉にもなる出はけ扉が用意されている。1階部分の上手下手にもそれぞれ扉が設置されている。天井からは要所要所にシャンデリアが吊り下がっており、その他にも壁に掛けられた照明や装飾が抜かりなく施されている。
また、古めかしい洋館らしく人が歩くとキシキシ音を立てる造りになっている点も非常に良かった。
さらに中央に敷かれた絨毯の下には、地下倉庫のようなものが存在し、そこには屋敷の歴代住居人の髑髏が箱に安置されていて、物語終盤で山城が取り出してみせる。この時の髑髏のクオリティも非常に高く、ちょっとゾッとするくらいリアルな感じだった、特に美貴子の髑髏は若干髪の毛も残っていたりして生々しく、あそこまで悍ましいものを作れてしまう技術力はハンパないなと思った。
それと、屋敷に怪奇現象が起こるたびに建物が地震があったかのように揺れるのだが、その時にシャンデリアが揺れたり、壁に備え付けられた装飾が揺れる仕組みがどうしても分からず、知りたいと思った。あの演出はかなり舞台上だからこそ効果的で革新的なものだったので、もっと他の作品にも取り入れていってよい技術なのではと思った。

次に照明だが、普段の舞台では役者の顔を照らす照明を入れるのだが、今回は役者の顔にスポットを当てる照明が一切なく、基本的に役者の顔をしっかりと見ることが出来ない極めて珍しい演出だった。でもその不気味さが逆にこの屋敷の雰囲気を良い方向へ印象付けていて、とても効果的な演出だったので良かった。この時の役者の表情が見たいとか多々あってストレスも若干感じていたが、これはこれで面白いと思えた。
また、台風によって停電してしまい、完全暗転した中シーンが進行する場面がある。その時スマホの光や燭台に炎を灯して場を照らす演出もなかなか面白かった。やはり舞台なので迫力が出て良かった。炎は燃えると危険なのであまり舞台上では使用しない印象があったが、今回は結構使用していて万が一のことがあったらどうするんだろうと心配にもなったが、きっと対策はとられているのだろう。
一番印象に残った照明は、舞台中央奥の観音扉の奥に位置する大熱量を持った照明がグアーと光るシーン。龍郎の婚約相手を連れてきたと紗貴子が現れるシーンがとても印象的だった。

そして音響効果だが、もう爆音爆音の連鎖で迫力は凄かったのだが耳が弱い人にはかなりキツイ芝居になっているんじゃないかと思った。如何せん、屋敷が人々に呪いをかけて異なる位相の世界へ誘う度に「グラグラグラ」と大音響で流れるので、自分自身も最初は耳が慣れずずっと「キーン」といっていた。
それと、雷雨や河川氾濫の濁流が流れる音は良かったのだが、屋敷の怪奇現象時のSEや電話がかかってくる時のSEはちょっと音割れがしていて、もう少し音源の工夫やスピーカーの工夫が必要だったのではないかと思った。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)


役者陣の演技力は全体的にレベルが高く、特に女性キャストの印象が特段に強かったので女性陣中心で印象に残った役者をピックアップしていく。

まずは御厨美貴子を演じる笹野鈴々音さん。
この方の演技を最初に拝見した時、結構年齢いっているのかと思っていたがまだ30代でした笑。それだけ貫禄のある女性を演じられる素晴らしい女優であるということと、何と言っても力強く演じる佇まいにとても感動した。
特に序盤の音楽が鳴りながら舞台中央で語るシーンや、美貴子の幼少時代の紗貴子に対する痛烈な記憶や子供を沢山作ろうとした理由を独白で語るシーンの力のこもった迫力ある演技はとても印象に残った。

次に、御厨紗貴子を演じた福永マリカさん。
この方の演技は妹の美貴子とは対照的で非常に上品だけど悪に満ちて恐ろしい感じが非常に良かった。美貴子の子供たちを次々とあの世へ誘ってしまう時の、あの悪い感じがとても印象的で悪女として好きだった。

美貴子の子供たちの演技もとても見応えがあって好きだった。
まずは、御厨はるかを演じる春名風花さん。
はるかは自分の芯を貫こうとする強い性格を持つ女性だが、そんなキャラクターを非常に力強く演じて切っていた部分がとても素晴らしかった。特に、美貴子に対して今でも憎んでいると言うあたりや、初めて光仁に甘えることであの世へ行かずに済んで光仁と抱き合うシーンがとても印象的で好きだった。光仁を好きで見つめあったり軽く触れ合ったりするシーンが個人的にはかなり好きだった。
そして、御厨ひとみを演じた野花紅葉さん。
いかにも都会の色に染まって家族のことなんてどうでも良いといったような態度をとる若い女性キャラクターだったが、実は禎巳のことが忘れられずに好きでこの御厨家に想いがあったというのが凄くこのキャラクターを好きになってしまう魅力だった。禎巳と二人きりになってキスを迫るシーンが個人的には大好きで、禎巳の上に座って上着を脱いでいくシーンがとてもセクシュアルで刺激的なシーンだった。その後で一瞬性行為をするシーンで、はるかがその光景を見ているシーンのインパクトがとても強かった。

女性ばかりにフォーカスを当てたが、男性では個人的には大原を演じる谷仲恵輔さんの芝居が良かった。物凄く声が通るキャストだなと思って、非常に存在感のあるしっかりとした力強いおじさんというのが好印象だった。

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【舞台の深み】(※ネタバレあり)


個人的に今回の作品は終わり方が非常に気になったので、幽霊屋敷と物語の終わり方について考察する。

この幽霊屋敷というのは、結局のところ御厨家の先祖も含めて、この屋敷に暮らす住人を一人あるいは二人生き残らせて殺し、その生き残った人がまた家族を作って同じ目に遭わせるということを繰り返してきたのだろうなと思った。これで、光仁とはるかが生き残ることで今度はこの二人の子供たちが屋敷の呪いにかけられるハメになるのだろう。
しかし、一番最後のシーンであの世であるはずの場にはるかと光仁が現れる。これは、彼らが命を犠牲にして紗貴子を始めとした屋敷の呪いに終止符を打とうとしたのだろうと推測した。実際シーン中ではるかは、自分の代で血を絶やして子供たちに同じ苦しみをさせたくないと言っていた気がした。つまり、はるかたちは自分が犠牲になることによって呪いを完全に断ち切ろうとしたのだろう。
それ以上先のことがわからないので、その後幽霊屋敷はどうなったのか描かれていないが、きっとそう解釈はできるような物語の運びになっていることは理解できた。他の観客がラストシーンを見てどう思ったか分からないが、あの物語のあと光仁とはるかの手によってあの呪われた幽霊屋敷から怪奇現象は取り除かれたと個人的には信じたい。

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【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)


一番印象に残ったのは、やはり個人的に大好きだった禎巳とひとみのキスシーン。兄弟姉妹同士だからという禁断の壁を乗り越えて恋愛関係になっていくあの過程が物凄く好みだった。そのあとの、性行為シーンで一瞬はるかがその光景を目の当たりにしている描写も刺激がとても強かった。
はるかと光仁があの世へ引き摺り込まれず、無事お互いのおかげで助かって抱き合うシーンもとてもセクシュアルで素敵だった。
美貴子が自分の過去と子供たちに対する想いについて独白するシーンもとても印象的、あのシーンから自分の芝居に対する集中力が格段に上がった気がした。あそこからグイグイと作品に引き込まれた。
照明で印象的だったのは龍郎の婚約相手を紹介すると紗貴子が玄関から現れたシーン、とてもインパクトが強かった。
それと一番最後の屋敷が火事になってはるかと光仁が現れるシーンも記憶に残った。

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