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(日記)めざせケモビール:福津よいとこ編


きっかけ

 おなじみ大人気WEB連載サイバーパンクニンジャアクション小説『ニンジャスレイヤー』には、「ケモビール」というビールの銘柄が登場する。味自体についてはそんなに本編での言及はない気がするが、ラベルのマスコット「ケモチャン」は謎のおだやかな存在感とアルカイックスマイル、ふわふわしたかわいらしさから一定の人気がある。

 このケモチャンはただのビールのマスコットに留まらず、作中では遺伝子改造により本当に生き物として作られている。例えるなら、キリンビールが本当に麒麟(動物)を作ってしまってCMに出している感じだ。

 ケモチャンはかわいいため公式グッズとかも人気があり、せっかくだからビールにしてみたいという気持ちを持つ読者はきっと多い。しかしケモチャンラベルをビールに貼るにしても、既存ビールに貼るのは権利上の問題がありすぎる。

 オリジナルラベルを貼ってくれる記念ビール作成サービスもあるが、ケモビールはそもそもそういう銘柄なので味の自己同一性があるはずだ。せっかくなら独自の味のビールを作ってその瓶にケモラベルを貼ってみたい、でもそんな都合良く面白体験ができる所などあるだろうか。

 とか思っていたらあった。家から一時間圏内だった。

 福岡県福津市(地元民なら旧津屋崎町と書いた方がわかるはず)にあるミチクサ醸造所さんだ。

 ニンジャスレイヤー公式discordには多くのニンジャヘッズがたむろしていて、その中で有識者が醸造所を教えてくださったのだった。有識者というか、「醸造所をやってる友人がいるから今度ビール造り体験に行く人いませんか」と募集案内を流しておられた。さすがに近所すぎてすぐ手を挙げた。ついでに同じく福岡ニンジャヘッズの友人を誘ったらそれだけで枠をいっぱいにしてしまい、準備万端となった。

 聞くと人数上限で来れなかった方もいるようで申し訳ない。ビールが完全に飲みきれないレベルでたくさん出来そうなのでラベル貼り&試飲会だけでもお呼びしたいところ。

 参加メンバーは下記の通り。

  • naggyfishさん(発起人)

  • 津々浦々くん(友人)

  • 八上(自分)

午前の部

 2023年9月16日の朝、JR福間駅にヘッズが集まった。naggyfishさんとは初対面だったが、ケモチャンTシャツを着ておられたので一瞬でわかった。スムーズに和やかお喋りムードとなりつつバス移動。西鉄宮地岳線は2007年に廃線になってしまって津屋崎へは電車で行けないが、バスものんきで良い。

良い天気の津屋崎海岸沿い

 醸造所につくと、とにかく明るいお兄さんに出迎えられる。ミチクサ醸造所の主、アッキーさんがその方だった。naggyfishさんのコーヒー友達だというアッキーさんは、津屋崎の歴史ある旧旅館「玉乃井」の建物の一角でクラフトビール「FOC」の醸造を行っている。

 玉乃井は現在では旅館業を営んでおらず、貸しスペースとして講演会の会場になったり、アーティストのアトリエとして使われたりしているらしい。旅館・玉乃井になる前からいろんな歴史を経ていたせいで正確な築年数も分からない100歳超えの建物はあっちこっちに傾きがあり、じっくりと年月が染みついてこれがめちゃくちゃ良い。

こんな感じの雰囲気
日本海海戦の絵が置いてある

 玉乃井の初代経営者・阿部正弘氏は日露戦争でバルチック艦隊を破った東郷平八郎氏を尊敬していたらしく、近くの大峰山山頂にある東郷神社は阿部氏の働きかけで建ったらしい。建物内にも東郷ムードが残る。

 ちなみにこの記事のサムネイルは玉乃井から海を見た景色。日本海海戦におけるロシア軍との遭遇地点はこの辺の沖のはずなので、一応地理的な由縁もあるっちゃあるのかも。

 トイレの場所を案内してもらうという建前で思いっきり玉乃井観光をさせてもらった後、醸造所スペースのある一階に移動し自己紹介とかをする。

 アッキーさんはとにかく明るいがとにかく基本理念がぶれない人でもあった。玉乃井に降り積もった100年ちょい分の思い出を愛し、ビール片手の食卓に生まれゆく思い出を愛し、それゆえにビールが「俺俺俺!」と言ってくるクセスゴクラフトビール路線ではなく、食卓に咲く一輪の花めいた名脇役クラフトビールを指向している。基本のラベルは窓型。なじみよくやさしい筆致の風景が窓の外に見えるイメージ。

 まずミチクサ醸造所さんが玉乃井に間借りしているの自体、玉乃井を支えたい気持ちからとのこと。(実際、借用部分の修繕費をアッキーさんが持つことにより、湿気で傾いてた正門の修繕をやってのけたりしているらしい。)ビールを作るに当たってとても頼もしい先達なのが伝わってきて背筋が伸びる思い。

FOCの基本ラベルは無印良品のアートワーク担当の方のイラストらしい

 メインのブランド「FOC」には3種類の味があり、一日醸造体験初参加者はこの3種の中からどのレシピを使うか決める。(2回目以降の人はレシピ改造などの無法が許されるようになるらしい。)作る人によって必ず個体差が出るため、個性はわざわざ出しにいかずとも出るとのこと。

 なお、醸造体験を麦粉砕から麦汁の比重調整からできるような醸造所は日本にここだけらしく、さらにうれしい。東京からもこれ目当ての人が来るようす。偶然近所でよかった。

 この感じだとケモラベルも古式ゆかしくまとまりのあるデザインが良いな等と思いつつグビグビと試飲。味比べをしていたらなんか無くなった。話し合いの末、味は香ばしいAMBERに決定。レシピをいただいて麦の重さを量って粉砕。

麦はかり風景

 このあと粉砕機に麦をガコンガコン入れて粉に。舞う粉がすごくて写真は撮らず。ここで午前中終了。

 昼は近所のトルコライス屋さん。カレーが絶妙な味で好み。総じてうまい。かなり満腹。おとなしいポメラニアンがいてかわいかったが個犬情報になるので写真は載せないでおく。

希少なサツガイ=サン無しnoteになるかと思いきやそんなことはなかった

午後の部

 午後は麦の粉末を一定温度で煮込み、比重がちょうどよくなるまで混ぜまくるところから。水の量も、完成時の量を想像しつつ蒸発分とかをうまく想像しながら手探りで入れる。初心者がウオーとか言いつつ水を入れるのをアッキーさんがニッコニコで見ている。決定的なネタバレはなしで見守ってくれつつときどきアドバイスをもらい、助かる。ちょっとニンジャの話もする。

たぶんこのへんなどと言いつつ水を入れる

 理科室のガスバーナーがコンロ型になった感じのでかいガス栓を自分たちで付けたり消したりして60度前後にうまく保たなければならない。そして常に混ぜまくる。そしてたまに比重を計って正解の比重に近づける。これがなかなか大変で汗だく。でも比重はかりタイムの度にワクワクして楽しい。たくさんお喋りもする。

多分1時間は混ぜていた 交代必須
麦汁の味見と比重計(メスシリンダー内に浮いている)

 麦汁の試し飲みもする。甘くてややクセはあるがうまい。ミロに通底するものがある。水の量とか濃度とかを考えつつ一定温度での混ぜを完遂したら昇温、また温度を調整しつつ一定時間置いてからホップを入れて、100度で煮沸。

 ホップもかじらせてもらったが写真を忘れた。えらい苦いが良い風味。口の中パッサパサになる。

 煮沸する1時間は自由時間なので、おすすめされた近くのお店でクラフトコーラを飲む。さわやか炭酸チャイという感じでうまい。クラフトコーラを出してくれたおばさまは「癖があるけど……万人向けって感じじゃないけど……」とやけに低姿勢。でも堂々とうまい。

クラフトコーラの店も歴史ある佇まい

 元は土間とおぼしきスペースのテーブルでのんびりしていたら、お店に常連らしいおじさまがやってきた。naggyさんのケモチャンTをまじまじ見ているのでなんだろなと思いきや、開口一番「いいTシャツですねえ……」としみじみ絶賛された。こんにちはとかより先に来るケモチャンTの魔力。なおおじさまもTシャツ姿。実写T。映画のワンシーンらしい。

 たぶんこれ。親の再婚で義兄弟になったニートがなんやかやするコメディ映画らしい。おすすめされたので見るかも。

 なおおじさまは、後からアッキーさんに聞いたところによると写真でも有名なゲームクリエイターの方らしい。そんな濃い人がひょっこりくるポテンシャルがおそろしい。

 そうこうするうち通り雨がザバザバ降る。クラフトコーラのおばさまが傘を貸してくれそうになる。「今度アッキーくんに返してもらうから」とのことだったので本当にお借りする構えになったが、ぎりぎりのタイミングで雨が止んだ。この辺の町おこし諸氏はお互いツーカーであった。

 休憩から戻るとそこには赤味噌汁のそっくりさんがあった。麦汁の煮沸が完了したので沈殿促進のためのカラギナン(海藻由来)を入れ、麦の粕が沈むのを待ってから上澄みをタンクに移していく。

煮沸完了

 さっきまでは「でもあとで煮沸するし」という余裕があったから普通に鍋をのぞいたりしていたが、酵母を入れた上澄みはもはや二度と煮沸できない。消毒スプレーをシュッシュしまくりながらタンクに移していく。無事にこぼさずタンク詰め替えも完了して酵母を入れる。これでこいつが3週間後にビールになっているはずだ。洗い物をやって大団円。

アッキーさんにも参加してもらいスリケンを生成

 ビール作るだけのつもりがガッツリ津屋崎観光になったし、アッキーさんにはお世話になりどおしだし、うまいランチを食べうまいクラフトコーラを飲み何かとエンジョイフルな1日になった。そのうちビールができるからラベルを作っておいて貼りまくりの会をやる必要がある。naggyさんのアジトにビールを届けていただく予定なので、つまみを持って行って試し飲みもしたい。

そして完成へ

 (2023.10.29)ラベル作りと完成の過程は上記記事にまとめた。無事にラベルが出揃ってるのでご覧いただきたい。

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