さらに審査に付すべき旨の審決
この条文を覚えておられるだろうか。拒絶査定不服審判の審決には「特許審決」、「拒絶審決」の他に、この「さらに審査に付すべき旨の審決」がある。
しかし、あまり見かけないでしょう。今回はそれを見てみます。
最新の案件
最も新しい「さらに審査に付すべき旨の審決」(以下、160条審決と呼ぶ)は2018年。もう5年も160条審決は出ていないようだ。
進歩性欠如による拒絶査定に対し、補正と審判請求が行われた。しかし、この進歩性判断に用いる主引例の表示に誤りがあり、さらにこの補正は新規事項の追加にあたるものであった。「補正が却下されることを前提とした更なる審理が必要」という審決が出された。
出願人は個人で、出願後の経過が少々複雑であるがそこには触れず俯瞰する。審査官が拒絶理由通知において引例の番号表示を間違い、出願人はそのことに気づかずに応答し、拒絶査定。この番号表示の間違いは、おそらく審査官にも出願人にもずっと気づかれず、審判でやっと明らかになった。
代理人がついていれば番号間違いも気づいたであろうし(番号間違いではよくあるように全く関係のない分野の文献になっている)、新規事項の追加も防ぎやすかったであろう。知財実務経験の乏しい者が本人出願するのはなかなかに厳しい。
その前の案件
あと2件ほど見てみよう。
その前の160条審決は2012年である。2番目、3番目に新しい160条審決はどちらも対象の出願の「優先日より後に頒布された刊行物」を引用してされた29条または37条の判断を違法とし、差し戻した。
3番目に古い案件に関して。ザ・ボーイング・カンパニーが出願人の特願2005-179545では審査段階で代理人S氏が優先日と頒布日との関係を指摘しており、流石といったところ。自身の実務で日付を確認せずに記載内容の読み込みに入ってしまうことはないだろうか。襟を正す思いである。
代理人Sは上記の日付を指摘しつつ、補正も行っている。審査段階で指摘があったにもかかわらず審査官が気づかなかった理由はこれではないかと思う。つまり手続補正書が提出されていたため、補正の根拠に関する記載以外はパパーっと読み飛ばされてしまったのでは。「雑すぎるだろ!」と思うものの、不要なヘッダ・フッタが長い意見書が多いことに目を向けると補正に関するところだけ拾い読みする気持ちもわからなくもない。読ませたいところが読まれるよう、「意見書は簡潔に」という教訓に至った。
160条審決は珍しい
期間を区切らず検索して全件で13件。160条審決は珍しい。
審査の判断に用いられた引例が妥当でない。まさしく振り出し。というようなケースでなければ審判官が判断を下すのでしょうね。少しでも審査結果が使えそうなら審判官がやりそうな感じか、暇そうだし。
ちなみに3番目、2番目、1番目に新しい審決文のむすびを見ると、
3番目「よって、本願は、さらに審査に付すべきものと認め、特許法第160条第1項の規定により、結論のとおり審決する。」、
2番目「よって、特許法第160条第1項の規定により、結論のとおり審決する。」、
1番目「よって、原査定を取り消すとともに本願について更に審査に付すべきものとし、結論のとおり、審決する。」、
結構ばらばらで、最新は「更に」と漢字だったり、気になる。
おわり
知財系 Advent Calendar 2023 12/15の記事です。
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