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きいろい女の子だから

特に親しいわけでもない男性、デーティング・アプリで少しだけやりとりをして、連絡をもらったまま返せていなかったひとに、久しぶりに連絡をしたら、いまの社会にパニックになって、君にビザをくれるご主人さまを必死で探しているのかい? とアテツケのように言われて肝が冷えた。わたしはわたし自身の力で獲得したビザを持っているのに、その発言はまとはずれも甚だしく、むしろ向こうの、アジア人の女の子に狙いをかけているのはそうした弱みにつけこめると思っているから、という姿勢が透けて見えた。以前やりとりをしたときは優しかったのに、彼こそ、いまの社会にパニックになってイライラしているのかもしれず、電話やテキストをくれても一向に反応できなかったわたしに、相当腹が据えかねていたのかもしれない。それでも、多くの人なら「流す」という道を選びそうなところを、相手を傷つけるつもりの言葉をわざわざ選んで言うなんて、大して知りもしないひとにそうできることではない気がして、あら、あなたって意地悪なのね。でも、わたしは自分で仕事のビザを取ったの。最近の状況は大変だと思うけれど、健康には気をつけてね、とだけ返信して、ブロックした。アメリカの友人にこれを伝えたら、私ならAssholeって言っちゃうね、と返されたので、なるほど、こういうときにアスホールって言えばいいのかぁ、もう少し反射的に言えるように練習するわ、と返信する。

仕事先に向かって歩いているときに、目の前を白人の女の子が三人、歩いていて、いちばんわたしに近いところにいた子がこちらを向き、もう少し離れてもらえる? と顔をしかめた。市の規定である6フィートはちゃんと離れていたし、そもそも6フィート離れることの意味を理解していない気がして、何よりも彼女たちが歩くのが遅いほうが問題なのに、と、胸がわだかまり、仕事で急いでいるから、と彼女たちを早足で抜かすと、オーマイガー、何よ、信じられない、と背中で悪態をつかれる。ずんずんと凸凹の激しい傾斜を歩きながら、自分がアジア人だから言われたのだろうか、男だったら言われなかったのだろうか、と、考えた。

お酒を飲みます