No.120 『エーザイ』 史上最強のCFO
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No.120 『エーザイ』 史上最強のCFO

アナリストとして精密機器セクターを担当していたわたしにとって、過去に対峙した最も印象的なCFOといえば、HOYAの江間賢二さんが真っ先に思い起こされます。おそらく大半の方はご存知ないかもしれませんが、「CFO」という3文字の肩書きがよく似合う人でした。財務的な知見の深さはもちろんですが、株式市場との間合いを図ることがとにかく絶妙にうまい。「みなさんからの質問には何でもお答えします。ただし、株主共通の利益に反しない範囲で」。何でもぶっちゃける脱力系の鈴木CEO(詳しくはNo.67をご覧ください)とは実に相性のよい組み合わせでした。おまけにルックスが最高。「和製リチャード・ギア」と勝手に名づけておりました。

そんな江間さんのことをふと思い出したのは、エーザイのCFOである柳良平さんの講演を社内で拝聴する機会を得たからです。恥ずかしながらお話をうかがうのは初めてと思っていたのですが、登壇された柳さんの姿を拝見してすぐに間違いであることに気づきました。あれは確かマネックス証券が主催する「アクティビスト・フォーラム」。パネルディスカッションのメンバーとして日本株の企業価値向上への方策を柳さんが提言されていました。間違いなく日本で最も有名なCFOのひとりと言えるでしょう。

初めてお話を聞いた時にも感じたように思いますが、柳さんに対する印象を一言で表現するならば、まさしく「史上最強のCFO」。エーザイのCFOであるのみならず、同社から唯一兼業が許された存在として、早稲田大学大学院の客員教授も務めていらっしゃいます。すなわち、実務家であると同時に理論家でもある。HOYAの江間CFOは優れたビジネスマンでしたが、さすがにアカデミズムの世界とは無縁であったように思います。これに対して柳さんは肩書きに掛け算がある。しかも、たんなる実務家と理論家のハイブリッドにとどまらず、いわば「格闘家」の要素も持ち合わせているように感じました。この希少性は半端ない。ポケモンカードにたとえるなら、世界にたった7枚しかない「No.1 トレーナー」並みの激レア度と言えるかもしれません(あまりピンとこないでしょうか)。

もちろん「格闘家」といっても実際にコンタクトするのは肉体ではありません。投資家やアナリストとの「対話」によるファイトであります。エーザイのCFOとして、柳さんは年間200件のIRをこなしていらっしゃると話していました。海外にもみずから積極的に足を運び、ニューヨークの投資家とはなんと5時間もミーティングされたらしい。「命を削るような」「血反吐を吐くような」対話の先に相互理解がはじめて待っているとの言葉には、それこそストイックな格闘家と呼ぶにふさわしい圧倒的な迫力が感じられました。まさにビジネス界の矢吹ジョー(あまりピンとこないでしょうか)。「チーフフィナンシャルオフィサー」あらため「チーフファイトオフィサー」であります。アナリストの立場で考えたとき、柳さんはできれば対戦を控えたい相手かもしれません。生半可な知識と覚悟ではとても太刀打ちできない。わたしのような中途半端にアナリストしていた身分では、同じリングにあがることすら許されないでしょう。

講演の中で最も心に残ったフレーズは、「見えない価値を見える化する」。5つの非財務資本である「知的資本」「人的資本」「社会・関係資本」「自然資本」を企業評価に反映する実験的かつ先駆的な試みに新鮮な感動を覚えました。「目に見える価値」、すなわち貨幣至上主義的な価値観の限界を目の当たりにするにつけ、従来のパラダイムを越えた新たな経済原理を模索する世界的な流れは不可逆的なものといっていいでしょう。非財務資本の価値に目を向ける。それはもともと日本の企業が、ESGなどという言葉が造られるはるか以前から大切にしてきた懐かしい価値観であると思います。ヘーゲルのいう「事物の螺旋的発展」よろしく、見えない価値を見える化する柳さんの取り組みが、日本の企業価値の再評価につながる可能性を強く感じました。

と他人事のように話している場合ではなく、わたし自身はどのような立場で日本の企業価値の再評価に関わっていくのか。中途半端な存在とはいえ、「アナリスト経験者」としてではなく、「現役アナリスト」として日本企業と再び対峙したい。「あなたは幸せですか?」との柳さんの問いかけに対して、迷うことなく「Yes」と答えられるようになるためにも。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
どうぞよい週末をお過ごしください。


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ゆういち@証券アナリストの『私的な企業分析』

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証券アナリスト歴20年以上。日経新聞とは一味違う企業分析をはじめ、魅力的な経営者のキャラクターやアナリスト業界のあるあるなどを紹介しています。企業や投資に興味のある全ての人たちへ。稚拙ながらも心を込めて書いた文章が、少しでも息長く面白いと感じていただけたら幸いです。