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No.102 『スギHD』 視線の先にある景色

スギHDが4月8日、2020年2月期の決算説明に関する動画を配信していた。野村証券が運営する『NET-IR』にコンテンツは掲載されている。スタジオ内のカメラに向かってプレゼンテーションする姿はまるで政見放送のようだが、決算説明資料をアップするのみならず、オンラインながらも会社側の声を聞けるのはありがたい。

消費増税の次は新型コロナ。小売店の月次売上は例年になく変動が激しい。2月におけるスギ薬局の既存店売上高は前年同月比+20.9%。マスクや除菌関連商品、トイレロールやティッシュペーパーなどの特需を体感だけでなく数字でも確認できる。

念のため、他のドラッグストアの既存店高も見ておこう。ツルハHDが+7.1%、ウエルシアが+20.6%、マツモトキヨシが+8.0%、サンドラッグが+13.7%、コスモス薬品が+11.3%。

各社の伸び率に開きがあるのは、商品調達力の差異によるものか、商品構成の差異によるものか、あるいは地域構成の差異によるものか。いずれにせよ、売上規模で拮抗する上位のプレーヤー間に『個体差』があるのは興味深いと思う。有事に対する各社の適応能力には意外に格差があるのかもしれない。

足元の話はこれくらいにして、スギHDの成長戦略を見てみよう。ポイントは『調剤薬局市場の攻略』である。

ドラッグストアと調剤薬局の市場規模はそれぞれ約7兆円でほぼ同じ。にもかかわらず、上位10社による売上高のシェアはドラッグストアが70%に対して、調剤薬局は20%に満たない。厚労省のビジョンによると、2025年までにすべての薬局を『かかりつけ薬局』へ転身させることを目指しており、調剤薬局は単なる処方箋の受付のみならず、24時間対応や在宅対応が求められることになる。近所の個人商店がコンビニに置き換わったように、基礎体力に乏しい零細の門前薬局は大手ドラッグストアに吸収されることになるだろう。

そもそも病院から処方を切り離す医薬分業は、医療費の増大を抑制するために導入されたはずなのに、調剤薬局のコストが上乗せされてむしろ膨らんでいる。市場寡占度の上昇によるスケールメリットの追求は必然的な流れであるように思う。

実はスギHDの成長戦略はさらに遠大である。ドラッグストアや調剤薬局にとどまらず、フィットネスや健康診断、長期介護やターミナルケアなど、ヘルスケア領域に対して包摂的にアプローチしたい考えのようだ。もちろん、すべてのパーツを独力で揃えるつもりはなく、関連する企業や自治体と積極的に協業したいとしている。この『トータルヘルスケア戦略の推進』はやや意欲的すぎるように思うが、ドラッグストア業界内での乱戦のみにとかく関心を払いがちな競合他社よりも一段高い視座で戦略を考えているところにポジティブな印象を受けた。

動画配信に感謝しつつも、やはり決算説明会はリアルが良い。経営者の表情や参加者の反応など得られる情報量が格段に違う。事態が早く収束することを願うのみである。

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