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誕生日(渡り鳥)|シロクマ文芸部

誕生日じゃない日おめでとう。
そう言ってくれたのは、
親友の鳥だった。

ぼくは生まれた時のことを覚えていない。
心の中にいるママは、
ぼんやりと漂う香りみたい。
顔は覚えていない。
ママを泣きながら探して、疲れて、
冷たい瓦礫の上に座っている。
そんな夢をたまに見る。

ぼくはひとり、
沼のほとりに住んでいる。
自分が怪獣だと知ったのも
最近のことだ。
よく知らないお喋りな鳥に、
お前は怪獣だって言われたから、
ぼくは怪獣なんだと思う。

そのお喋りな鳥も、
いつもひとりだった。
仲間はいるみたいだけど、
一緒にいるのは嫌みたい。

その鳥はふらりと現れて、
ふわっと消えていった。
ぼくのそばに
ずっと居てくれるわけではなかった。

なんとなく空の色や木の色、
虫たちの歌声とか、
空気の温度や何かで、
そろそろ現れるな。
そんな風に思っていると、
いつもふらりとやってきた。

お喋りな鳥は物知りだった。
いろんな話をしてくれた。
遠い冬の国にいるクマの話は、
とんでもなく面白かった。
そのクマに会わせてほしいと頼んだくらいだ。
本当は一人旅が好きなんだけど。
そう言って遠い目をした鳥のことが、
ずっと引っかかっていた。
その時はよくわからなかったけど。

ある日、誕生日という言葉を教えてくれた。
生まれた日のことを聞かれたけれど、
ぼくは自分が生まれた日を知らない。
そもそも、日も月も年も知らなかった。

それを聞いた鳥は「一年」について
説明してくれた。
冬という寒い季節に始まり、
暖かい春、暑い夏になり、
真っ赤な秋が過ぎ去ると、
冬という寒い季節に戻り、終わる。

それが「一年」だった。

そして、寒い冬に毎年現れるのが、
渡り鳥の白鳥、親友の鳥だった。

今まで薄々感じていたことが、
全て鳥の話す通りだと、
なんだかとても感動して。

ぼくも一年を、
自分の一年を、
数えてみたくなった。

鳥は一年後にまた来るから、
会えた日にはお祝いしよう。
そう言って飛び立った。

ぼくは答え合わせをするみたいに、
ひとつ、ひとつ、一年を数えた。
太陽の色、月の形、
咲く花と散る花、
長い雨に大きな雲、
葉っぱの大きさや、
美味しい木の実、

そして、今年もまた寒い冬になった。

渡り鳥がやってきた。
白鳥の親友は、ぼくに言った。

誕生日じゃない日おめでとう。

ぼくは渡り鳥の君のおかげで、
ついに、ひとつ歳をとることができた。


(おわり)


🔸#シロクマ文芸部 に参加させていただきました。
「誕生日」楽しかったです🥂✨
ありがとうございました✨


私の誕生日とは月も季節も合っていない誕生日プレゼントをくれる知人に、不思議の国のアリス みたいだね…と言ったことあったなあ。というのと、
故郷の冬に飛来する白鳥🦢を思い出して書きました。

ディズニー映画 不思議の国のアリス
『The Unbirthday Song』
誕生日じゃない日のうた
♪なんでもない日バンザイ♪

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