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振り返る(足跡に花)|#シロクマ文芸部

振り返る 足跡
足跡には花一輪
点々と続く花の道
右足 と 左足
交互に進む 花と花
立ち止まり 隣に並ぶ花


遠くに見える雲の下あたりを目指しているのだが、歩いても歩いても景色は変わらない。道を歩いているのか、それすらも分からず、ただ前を見て、前に進む。右足を出せば、だいたい左足が出る。進んでいる。進んでいるはず。見渡す限り何もない、遥か遠くまで続く草原。景色はどこまで進んでも変わらない。


進んでいるのだろうか?


街を歩く。次のあの信号を左に曲がる。よそ見をしながら歩道を歩く。カフェでお茶を飲む人と気まずく目が合い逸らす。前に向き直せば目の前に人、さらりと避ける。花屋を通り過ぎて、信号を左に曲がる。この大きな公園を抜ければ、目的地はもうすぐそこ。


歩いている。目的地のあの雲の下はまだ見えない。景色は変わることなく、ずっと同じ草原が続く。右足と左足。曲がり角もなければ、分かれ道もない。道なき道をただ歩く。流れる汗、流れる涙。神経は鋭くなり、呼吸と心臓の音だけが響く。歩く速度がだんだん速くなり、走り出す。走っても走っても雲は遠く。まわりの景色はもう見えない。
優しい追い風が向かい風に変わる。
止まれ。


振り返る 足跡
足跡には花一輪
点々と続く花の道
右足 と 左足
交互に進む 花と花
花たちはまっすぐに見つめて
手を振るように 大きく揺れる



街を歩く。さっきの花屋まで戻る。
そうだ。頑張ったあいつに、足跡に咲いた全ての花を集めたような、大きな大きな花束を贈ろう。




(おわり)


🔸#シロクマ文芸部 に参加させていただきました。
「振り返る」楽しかったです♪
ありがとうございました!


進み、止まり、振り返る。
先日観たお芝居で、主人公はその場で足踏みをしているだけなのに、まわりの景色が動くことで、進んでいるように見えるというシーンを見ながら、私の中の思い込みが一つ外れたような気がして、なんだかすごく感激しました。
進むということは景色が変わることなのだと思いながら書きました。
実は主人公はその場で足踏みしているだけかもしれません。

#連鎖街のひとびと  

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