2020年5月13日
趣味がキャンプなのだが、ずっと狙っていたキャンパー御用達の鉄板「ヨコザワテッパン」が届いた。
1キロある。大きさは叙々苑の網ぐらい。
シーズニング(鉄板や鉄鍋を初めて使う時に必要な油をなじませる準備)を行い、帰宅後1人焼き肉をする。
美味い…お店の味だ。
その後、深夜3:30まで台本を書いて就寝。
朝のリビング、焼肉屋の匂いがする…
「カバネリツアーズ」
2016年。
プロデューサーに呼ばれてフジテレビに新しいアニラジの打ち合わせに行った。
「甲鉄城のカバネリ」のラジオ。
WIT STUDIOによるオリジナル作品で監督は荒木哲郎さん。脚本は「コードギアス」の大河内一楼さん、キャラクター原案は「超時空要塞マクロス」の美樹本晴彦さん。
初見の印象は「おーう、俺の時代、俺の好みやないか」。
僕にとってノイタミナ枠のラジオは初めてで、オリジナル作品のラジオというのも珍しい。
パーソナリティーは畠中祐さん、千本木彩花さん。共にほぼ新人声優。僕は会った事がなかったので印象を聞くと
「千本木さんはラジオはやっているけども、そんなに前に出て喋るイメージでは…」
「畠中さんはトークが迷子になるようで…」
というこれまたラジオ苦手なんじゃないか系の2人でラジオをやる事になった。
さてさて、どうしようか。
パーソナリティーの掛け合いにイメージが付かない場合はトークに比重を置かずに別の事、設定や構成で色を付けていく。
トークが跳ねたら方向性をいつでも変えられるようにしておく。
打ち合わせで「甲鉄城が日本全国を回って、その土地の美味しいものを食べる」という設定を決めた。
あとタイトルコールのあとに「汽車のポッポー!」というSEを付けて欲しいと伊藤ディレクター(今は「告RADIO」で一緒のラジオディレクター)に注文をした。
「必死が過ぎる」
初収録。
恐らく、僕のラジオ歴で一番緊張しているであろうパーソナリティーが2名やってきた。
畠中さんは緊張すると頭をかきむしるのだが、打ち合わせからかきむしっていた。
千本木さんは番組を回すのに必死だった。
2人とも必死が過ぎる。
ラジオに慣れていない人がラジオを成立させようと回しを頑張ると、あまり上手くいかない場合が多い。
ラジオを回す、進行をしっかりするというのは基本は生放送におけるラジオパーソナリティーの力であり、相当の手練でないと上手くはいかない。
慣れていないのであれば上手に回す事よりもラジオを楽しむ方法を探した方がいい。
というのも「カバネリツアーズ」、中盤こそ人気は出たが初期は面白さの軸を見つける作業で結構大変だった。
2人とも「番組を進行しなきゃ」と必死になるので、歯車が空回りの空回りで噛み合わない。
さてどうしたものか。
「諦めて楽しむ事に気付く」
徐々に2人が噛み合ってくる時が出始めた。
確かある収録の際、2人に「回さなくていいから。つまらないと思ったらつまらないって言ってもいいんだよ。問題になるならカットすればいいし。」と言った気がする。
その辺りから番組に変化が産まれる。
まず千本木さんが畠中さんに気を使わなくなった。
するとどうでしょう。
「気を使わない」という事で「進行に集中する」事が出来る。
そして畠中さんは台本をあまり読まなくなった。
するとどうでしょう。
彼が何を言っているのか、より分からなくなった。
でも、あれ?なんかこれ面白いぞ?
畠中さんがこんなに汗かいて、必死に喋って、面白い事言うぞ!ってマイク前にいるのに、目の前にいる千本木さんに全然響いてない。ビックリするぐらい響いてない。
ここで千本木さんが畠中さんのトークを真正面から受けてしまうと「スベったのをフォローする」事になるのでラジオ的には共倒れ。
そう諦める事によって番組の楽しみ方を知ったのだ。
番組は当初予定していた方向から大きく舵を切り始めた。
「メールの秀逸さ」
メールの数は徐々に増えて行きつつ、遂に週2000通を超える。
アニラジとしては大ヒットだ。
「ドM」「変態」「イジり」のメール。甲鉄城のカバネリはどこにいった。
まさに甲鉄城が勝手にレールを引いて走り始めたのだ。
「リスナーのイジり」に関しては秀逸だった。
「相談です。将来声優になって憧れの谷山紀章さんと同じ賢プロに入りたいのですが、どうやったら賢プロから畠中を追い出せますか?」
こんなイジりメール、絶対に他のラジオには来ない。
リスナーのメール偏差値が高すぎる。
おかげでカバネリツアーズの収録時間はオーバーもオーバー。
ただ高い再生数とメール数を保っていたので、オーバーしても許されていた。
だってメール全部面白いんだもん。全部読みたいよ。
「同じ方向性」
アニラジとは短命がつきもの。
アニメ終了と同時に終わるなら全12回。
隔週配信なら全6回というラジオもあるくらい。
ただこのカバネリツアーズは「無印」と「乱」を併せて相当な本数を収録している。
それでも同じ方向性、基本的には「イジり系」で最後まで終えられた。
これは凄いことで、イジりメールも6回ぐらいやると天井が見えて来てつまらなくなる。
パーソナリティーも返しが単調になって、徐々に人気に陰りが見え始める。
ただこの番組は続けば続くほど凄かった。
メールはそれはそれは色んな方向から2人を切ってくる。
イジりのパターンが凄い。
これに全部対応する2人。
単調に返すのではなく、返しのバリエーションが増えていく。
まさにリスナーがカバネで、パーソナリティーの生駒と無名がバッシバシと倒していくようだ。
この同じ方向性で最後までやれたのは本当に凄いと思う。
「カバネリツアーズは部活」
担当した番組を振り返る時、色々な事を思い出すがカバネリツアーズは部活のようだったと思う。
俺は顧問の先生で2人は新入生で入部し、卒業の頃には立派に喋れるようになっていた。
主役は2人。
俺は教えたというよりただ顧問としていただけだった。
リスナーのメールに自然体でも返せるようになっていく。
成長とはこういう事なのだろう。
今も思い出すとついつい笑ってしまう。
それでたまに聞き返すが、色んな意味でまた笑ってしまう。
まさに部活のようなラジオだった。
「総括」
パーソナリティーが2人ともラジオに慣れていない場合、2人の歯車がどこで噛み合うかが重要となる。
それが噛み合って、更にそこからどう面白く回るかは結局の所、運と才能なんだと思う。努力はそれを助ける潤滑油だ。
噛み合わない第1回放送から横で見ていた立場からすると、歯車が噛み合って番組の人気が上がっていくシンデレラストーリーをこの目で見ることが出来たのだから作家としてこの上ない幸せだ。
まぁ歯車噛み合うといっても、まさか結婚までするとは。
噛み合うどころか同じ歯車になってるのだから。
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