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思い出の食卓(タイ)


 タイのチェンライというタイ最北の県に位置するレストラン。息を吸い込むと、生暖かい空気と同時に香辛料のくせのあるにおいが鼻を抜ける。


かと思うと、時折吹く風がかすかに私の頬を削りとる。私は1人見知らぬ土地であるレストランに座っていた。


「注文は何にするー?」

少し浅黒い肌のまっすぐな眼差しを持つ店主がわたしに話しかけてきた。

しかし、言葉がわからなかったためうまく答えられない。

必死に今知っている言葉を捻り出す。何と言ったかわからないが、必死に指を差し、メニューを注文する。


「これめっちゃ辛いけど大丈夫?」

心配そうにまたまっすぐな目を向ける。まるで息子を心配するような表情だった。

「とりあえずこれでいいです」メニューに英語も写真もなかったので、飲み物か食事のメニューがすらわからない。出されたものをとにかく食べる。私にできるのはそれだけだった。

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今まで行ってきたレストランでは、ことごとく思っていたものと違うものを注文してしまっていた。

例えば、辛くないものを頼もうとしたのに、飲み物が出てきたり、日本人に耐えられないレベルの辛さのトムヤムクンのスープが出てきたりした。
1度も求めていた料理に当たったことがなかった。


もちろんタイ人の方とご一緒するときは、好きなものにありつけたが、1人でレストランに行く時は少しくじ引きを引くような感覚に陥っていた。いや、むしろそうなることを楽しんでいたのだろう。


その日に出てきたのは、ข้าวขาหมู(カオカームー)という豚煮込みだった。
少し甘辛いでトロトロになるまで煮込まれた豚肉。綺麗に盛り付けられたご飯と煮卵。優しい味。愛情たっぷりだった。なんだか実家に帰ったような味がした。私が食べている間に「どうだー。うちの飯は美味いか?もっともっと食べてけよ」そう言っているような笑顔でわたしに話しかけてくれた。もちろん何を話してるかわからない。でも、初めて来たお客さんに対しての接し方ではない。
こんなに気さくに話しかけてくれる。おいしいおいしいと思って食べながら、「なんでこんなに優しくしてくれるんだろう」と疑問を持つ自分が少し嫌になってきた。いつからだっけ。こんなに純粋な優しさを感じなくなったんだって。いつからだっけ優しくされたらこんなに嬉しくなるなんて。ただただその優しさに愛を感じて、ほんとに家に帰ってきたような感覚になった。
私はできるだけゆっくり時間をかけて、料理の味を噛み締めることにした。少しでも長くここにいて、優しさに触れていたいから。

授業が終わった後の学生が大勢駆けつけ、あっという間に満席になった。こうしたいられない。とにかくお礼を伝えたい。でも言葉が出てこない。全力の会釈でそのお店を後にする。そして気づいたらまた夜その店に足を運ぶこともあった。
「あー、おかえり」またあの屈託のない笑顔だった。おそらく1日で相当なお客さんが来ているせいか、涼しいはずの夜なのに、昼間より汗ばみ、少し顔の彫りが深くなっている気がした。

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◆イベント情報

京都オンラインインターナショナルパーティーは毎週木曜日日本時間の20:00から行います。次回は2月4日(木)です⭐️


京都で日本人と外国人を繋ぐオンラインイベントを主催しています。

https://www.meetup.com/ja-JP/Kyoto-Multilingual-Group-Across-the-Border/

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・ゲームオタクスウェーデン人
・日本大好きアメリカ人
・元京都在住香港人
・山を愛する山ガール
・英語を勉強し始めた大学生
その他優しい参加者がいらっしゃいます。もしよろしければ覗いてみてください。


いつも読んでいただいてありがとうございます!
Yuichiでした⭐️

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