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きみは短歌だった

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2018年1月の記事一覧

【村から町へ②】 感情のすがたを町にするときにどうしてここにある精米所/浅野大輝

「モー娘。」のよっすぃーが好きだった。かなり好きだった。 本気でオタクをやっていた友人からすると激甘のニワカだったけれど、僕にとっては確かな炎だった。学生である僕の日々はとても地味で、マッチ売りの少女のように凍え死ぬほどの過酷さも無く、なにも無さすぎて漠然と寒かった。「モー娘。」はプロの仕事をするチャッカマンだ。悪い意味では決してない、真逆だ。はちゃめちゃに輝いているのに、いつも僕らの生活の側にいる。とびきりポップな色をして、必ず火を灯してくれるチャッカマンだ。漠然と寒い夜

【村から町へ①】 「しあわせね、きみはしあわせ。そうでしょう」と殴るような世間様だわ/柴田葵

お正月がとても嫌いだったし、大人になった今も身震いがするほど嫌いだ。 時代も土地柄もあるのだろう、来る年も来る年も、母は来客のために神経を尖らせていた。普段滅多に叱られない私も、年末年始にはひどく叱られた。兄たちは座布団を並べる程度の手伝いしか命じられなかったのに、女に生まれたらしい私は場が整うまで座ることすら許されなかった。 ふざけるな、と言える相手が欲しかった。いなかった。 子供の私が住んでいた村は統合されてとっくに町だ。上の世代はみんな死んだから、両親はのんびりと

【ない昼・ある夜②】 携帯じゃなくてほらチョコレート握ればいいよ、溶かして泣こう?/柴田葵

明日は土曜日だ。職場は銀行の類なので、もう四年、きっちり暦に従った勤務をしている。お盆は法令で定められた祝日ではないので出勤するけれど、明日は土曜日なので休みだ。今晩はいくら起きていても構わない。 本当は、どの曜日だって起きていていいはずだ。私は既に大人だし、一人で暮らしているのだから、誰にも文句は言われない。夜更かしに罰則はないし、生きて、職場へ行って、仕事がしっかりできるのならば、眠らなくてもいいはずだった。私には眠らない自由がある。けれど、私の体には眠らない自由がない