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ヒトの脳に搭載されている3つの世界認識モードとは?──物理スタンス、設計スタンス、そして志向スタンス。 #ToM Ⅱ | 進化心理マガジン「HUMATRIX」


" さて、ここに秘密がある。 とても簡単な秘密だ。 それは、心によってしか人は正しくものを見ることができず、大事なことは目には見えないということだ。" ──アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(『星の王子さま』)

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ToM  #05

ヒトの脳に搭載されている3つの認識スタンス

われわれホモ‪·‬サピエンスは「他者(others) の振る舞いを理解して予測する」ことの進化的な必要性から、脳に3つの認知スタンス───いわば世界認識モード───を搭載している。


進化論的哲学の第一人者ダニエル=デネット(悲しいことに先日訃報が報じられた)は、この、ヒトに搭載されている3つの世界認識モードを「物理スタンス」「設計スタンス」「志向スタンス」とそれぞれ名付けた。*Dennett (1987)

なお、ここでいう「他者(others)」には人だけでなく、動物やモノやその他さまざまな自然物も含まれる。

自分をとりまく「他者」がこれから取りそうな動きを予想することがヒトをふくむ動物の生存にとって役立つ思考であることに意義はないだろう。

たとえば、山頂から巨大な岩が転がり落ちてきた時、その動きを予想して進行ルートを避けるようにしなければ岩石の下敷きになって死亡してしまう。動物個体が生存を確保するためには岩の "ふるまい" を理解して予測できなくてはならない。

物体の動きを予測できなかった個体が死んだり、食えずに淘汰されていったことによって物体の振る舞いを直観的に予測できる能力が進化した。

岩のような物体の "ふるまい" を予測するときに発動される世界認識モードは「物理スタンス」だ。自然環境を生き抜く上で物体の動きの予測ができることは基本中の基本スキルなので、ヒトに限らず大半の動物はこの物理スタンスを搭載していると思われる。

✔︎ 物理スタンス(phisical stance)


物理スタンスとは、その物体の物理的組成、物理的性質、そして自然の物理法則にもとづいて、物体のふるまいを予測する認知モードだ。────ここでは「なぜその物体はそのように動くの?」と問われた際、 「物理学的な答え」をわれわれはあげる。

ヒトはこのアニメーションを見たとき、脳の物理スタンスを自動的に起動して、円は自然物であり、物理法則にしたがってポンポンと跳ねて落ちいくんだと動きを予想し理解する。


図は https://www.jcss.gr.jp/meetings/JCSS2011/proceedings/pdf/JCSS2011_O5-1.pdf より引用


動く物体の進行方向の予測は、2歳や3歳の赤ちゃんでもできる。ニュートンの物理法則を学ぶ前から、ヒトは物体がどのように動くのかを直観的に理解しているが、もちろんそれは驚くべきことではない(進化的本能だ)。人生において決して物理学の授業など受けないはずのイヌやネコなどの動物だって、人間が投げたり転がしたり壁にぶつけたりしたボールの進行方向(ふるまい)を正確に予測し、追いかけることができるのだから。

また赤ちゃんは、物体がいきなり弾け飛んだりいきなり消えるなど、物理的法則に反する「ふるまい」をした時には、はっきりと驚きの表情を浮かべる。〝驚き〟という感情システムの機能とはスキーマの不一致を検出し予期せぬ出来事への即時的&長期的な順応を可能にするプロセス(出来事分析とスキーマの修正)を準備し開始することなので、あらかじめ物理的予測ができていなければ、「驚く」はずはないのだ。


*心理学用語: スキーマ(Schema)とは、人間が先天的な直感、あるいは経験の積み重ねにより獲得する、外界を限られた情報から理解するための枠組みのこと。

ヒトの脳には世界認識モードとして〝物理スタンス〟が搭載されていて、このシステムにより本能的(直観的)に自然物の動き方を理解し、予測することができる。

このことは納得してもらえたことだろう。



────さて、次に登場するのは「設計スタンス」だ。

設計スタンスも物理スタンス同様に〝物体/モノ〟に適用される認識モードなのだが、岩や木のような自然物ではなく、人工物に適用されるという点で物理スタンスとは異なる。

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