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スカベンジャーとしての人類──骨付き肉をしゃぶる悦び。 #進化グルメ学 no.30

香ばしく焼き上がった皮、しっとりジューシーな肉。

ニワトリを一匹丸ごと焼き上げるローストチキンは、クリスマスの定番として知られるメニューだが、オレたちは「肉食のサル」として知られるホモ·サピエンスなのだから、べつにキリストバースデーにかぎらず毎日のように食べたっていいだろう。コメのように。

(米や小麦が主食というのは農耕文明の陰謀だ!オレたちは本来、肉を主食にして野生を生きたサルだ!)

港区三田にある『ファーマーズチキン』は、ローストチキン───いや、そろそろこのメニューの正式名称のロティサリーチキンと呼ぶべきだろう、フランス語で炙り焼きを意味するrotirからきている───の専門店でありながら、毎日毎週でもフラッと1人で気軽に入って腹を満たせる「街の食堂」を目指す店だ。

ロティサリー専用オーブンで丹念にあぶり焼きされた本格派チキンが焼きたてで提供されるにもかかわらず、1000円ちょっとのお手軽価格でランチにありつけるとあって、お昼時には近隣に勤務するリーマン達が列を成すそうだ。

オレは混雑すると聞くお昼時を避け、日が暮れたあと『ファーマーズチキン』に入った。すると即座に目に入るはグリルにブッ刺さった何羽もの鶏。ゆっくりくるくる回し焼されている。おいおい「焼きたて」と聞くと過去形を想像していたが、これは現在進行形「焼きing」の肉じゃないか。

さっきまで焼かれていた肉が切り分けられ、皿に盛られ、提供される。表面はパリッと香ばしく、中は肉汁がシェイプされてあっさり引き締まった肉。


フライドチキンのように脂っこい肉もいいけれど、ロティサリーチキンの良さは、この余分な脂を落としたキレのある味わいだ。脂質ではなく純粋なタンパク質に舌の味蕾を攻撃されているという感じだ。

そしてうまいのが骨周りの肉だ。フォークとナイフで綺麗に食べるには難しく、お上品な連中はマナーを気にして食えないチキン最後の部分。骨にまとわりついた肉のスジを指二本で剥がして下品に舐め回す。あまりにも最高。そしてオレは思った。

人間が骨付き肉をしゃぶる際の多幸感は、いったいどこから来ているのだろう?


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