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リモートキリング能力の進化───直接闘わない"遠隔殺害"を可能にしたヒトという種。 #Hutr Ⅰ |進化心理マガジン「HUMATRIX」

" 私は大空に矢を放った 矢はいずこともわからぬ大地に落ちた " ───ヘンリー‪·‬ワズワース‪·‬ロングフェロ(『矢と歌』)

" 生きてうごめくものは、すべてあなたがたの食物となろう。"(『創世記』第9章3節)



#01

石を投げるサルの登場


メジャーリーグ投手の平均投球速度は、時代とともに年々速くなっている。現在では半数以上の選手が時速160キロものスピードでボールを放り投げることが可能らしい。一体どうして彼らは、そんなにボールを投げるのが上手くなったんだろう?

しかし、生物学的観点からこのテーマを捉えるなら、上手い / 下手を考える上での分母を人類全体に置くのはよくない。野球選手だけが「ボールを投げるのが上手い」というわけじゃあないオレ達ホモサピエンスという種がそもそも「ボールを投げるのが上手い」動物なんだ。

サピエンスの一般人男性なら誰もが少しのあいだ訓練を施すだけで時速80〜100キロのボールを投げられるようになる。一般人女性でも適切に練習すれば時速40〜60キロはほぼ誰でも投げられるようになる。

それに対して、チンパンジーのおとなオスが物を投げられるスピードはどんなに速くても時速30キロがせいぜいだ。(30キロてw しょぼ!子どもかよ?)かなりのスローボールだが、投げられるだけでもすごいというもの。モノを投げることが可能な種は非常に少ない。オレ達人類はその極地にいる。

>The Converstation| 投擲の進化。人類はいかにして地球上で最も優れた投擲選手になったか)


一体どうしてオレ達ヒトは、こんなにボールを投げるのが上手くなったんだろう?

その答えは「練習」でも「努力」でもない。「設計」であり「遺伝子」だ。オレ達ヒトのカラダは、ボールを投げるための設計/デザインがあらかじめ為されているからだ。

モノを投げるための進化。人類の骨格は、解剖学的にモノを投げやすい形へと形状が変化しているのだ。

ジョージ‪·‬ワシントン大の進化人類学者ニール‪·‬ローチが2013年にNature誌に発表した研究では、アメリカの大学野球の投手の上半身の動きを3Dカメラとコンピュータアニメーションを使ってトラックし、ヒトの投球運動のエネルギーの流れを追った。*1

*1  N. Roach et al. (2013)

その結果、ヒトの肩が投球時にパチンコのように大量のエネルギーを蓄え、突然放出するような動作をしていることが明らかになった。

ローチらは、ヒトの投球動作に欠かせない3つの重要な適応───広いウエスト、胴体における低い肩の位置、上腕骨をねじる能力────が今から200万年前のホモエレクトスの時代にはすべて完璧に揃った状態で存在していたことを突き止めている。

エレクトスの時代にすでに設計が完成しているということは、その前身のアウストラロピテクス時代に長い期間をかけて進化・より良いデザインへの改良が進められていたということだ。

アウストラロピテクスといえば、安全な樹上生活をやめて捕食者がウヨウヨいて危険な地上に初めて降り立った人類種の祖先だ。

>関連記事: 果実危機に陥った猿人


この過酷な時代に〝投擲行動〟が進化したと推定されるわけだが、この猿人たちが「何のため」に投擲をしていたかは想像に難くない。

────え、なになに?

樹の高いところに実ってるフルーツ🥭に、石をぶつけて落とすとか?

いやいや、それは木に登れないキミたちホモサピならではの発想だろ。アウストラロピテクスは樹上適応を失っていないので、ふつうに木に登って実は獲れる。

アウストラロピテクスの投擲は

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